モンブラン 登頂三人


- GPS
- 32:00
- 距離
- 18.1km
- 登り
- 2,542m
- 下り
- 2,550m
コースタイム
- 山行
- 3:30
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 3:30
- 山行
- 9:50
- 休憩
- 0:40
- 合計
- 10:30
テートルース小屋からグーテ小屋までは正確
モンブラン山頂からグーテ小屋は駆け足状態で下山
天候 | 雨 吹雪 曇り |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
電車
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト) 飛行機
ニーデーグル(登山列車終点地) |
写真
感想
(当時の記録から、写真はアルバムを複写)
1999年(平成11年)8月16日(月)〜17日(火)
モンブラン 登頂三人
登山中天候に恵まれること。そして高度に順応できるかその時の体調。
このどちらか一つが不運にも上手くいかなかった場合、ヨーロッパ最高峰のモン・ブランに登らせてもらうことはかなわない。
今回は二つとも私に味方してくれた。運が良かったのだ。
8月16日(月)
アトラスのY氏さん(白馬出身)の車でレズーシュへ。ロープウェイでベルビューまで昇る。そこから登山鉄道でモン・ブランの登山口のニーデーグル(2372m)までアルプスの雄大な景色を眺めながら進む。
どんより低い雲が我々の行く手にかかり気になる。
登山口で山行中のパートナー、そしてガイドが発表された。
28歳、大学山岳部出身の銀行員Kさんと組むことになった。ザイルをつなぎ苦楽を一緒にすることになる。
ガイドはバーレブランシュの氷河山行をリードしてくれたヴノアさん。
アルファロメオのハンドルを握り、ヤマハの大型バイクに跨がり、フランススキー界ではちょっと有名という粋な山男だ。
何となく気が合いそうな二人とザイルをつなぐこととなり、気持ちが楽になった。
モンブラン山頂を目指すのが目的だけに重要な組み合わせの運・不運がある。この組み合わせどうだったのか。
ニーデーグルを出発。順調にガレ場を通り高度を上げて行く。途中から雨がぽつりぽつりと降り出してきた。気になっていた雲がまずは雨を降らせてきた。靄で見通しも悪くなり、雨足も強くなりそうな天候に変わってきた。
最初の避難小屋の中で雨支度に急いで着替えた。雨の中を歩くのは先への不安もあり正直なところ気持ちが重く暗くなってくる。それでも気にしていては前に進めないので、今回のために新調したヘリテイジの最新ゴアテックス合羽(レインウエア)の快適さを楽しみながら、本日の目的地グーテ小屋を目指した。
雨足は強くなるばかり。休憩地のテートルース小屋(3167m)付近では何と霙に変わってきたのだ。雪降りは当然あることで覚悟してきたのだが、日本の夏山では考えられないことだ。
ところが驚くのはまだ早かった。テートルース小屋に入って休憩中。今日の目的地グーテ小屋の様子をガイドが確認したところ、風速30mの猛吹雪で雷は鳴り、とても近づけないとの連絡が入ってきたとのことだった。
そこでしばらく天候の回復を待ったが、一向に好転する兆しは見えてこない。そればかりかテートルース小屋にも吹雪が押し寄せてきた。窓ガラスを強く雪がたたきつけ、みるみるうちに雪が積もってゆくのが分かった。そこでテートルース小屋で一夜を過ごし、明日の天候状態でアタックするかどうか決めることになった。
テートルース小屋の中は、停滞する登山者で身動きができないほどの状態。
明日の天気も気になるし、重苦しい雰囲気で待つのにはいささか参った。
そこにさらに震えながら全身つららを下げた登山者が入ってきたりと騒然としているのだった。
待つこと数時間。ガイドと一緒に来ている強みだろうか何とかベッドの確保ができ、ひとまずは身を置くことができるようになった。
後から入ってきた人は食堂の床に座ったままというグループもあったようだ。毛布も2枚使い窮屈の中にも安堵感があった。
外は雪が降り続けている。簡単な夕食をいただきベッドに潜り込む。明日の天気が良くなることを祈るばかりだった。
8月17日(火)
五時起床。なんと天気は良好、昨夜の嵐が嘘のようだ。一面新雪で覆われている。朝食を素早く済ませて出発の準備をする。アイゼン、ピッケル、ヘルメットを身につけ、ハーネスにザイルをつなぎ薄明かりの中をヴノアさん先頭に新雪を踏みしめ歩き始めた。
最初の難関クーロワールを落石に注意しながらトラバースする。
遭難事故の最も発生する箇所だ。緊張が続き、山頂を目指す興奮とで寒さを感じていなかった。
クーロワールを通過しても急峻な雪と氷の岩稜が続き気が抜けない。
足下はアイゼンを慎重に使い滑ることはないが、指先のホールドが滑りそうで不安だった。
グーテ神峰直下のグーテ小屋(3782m)は朝日に照らされ真上に見えているのになかなか着かない。ようやく着いたのは八時頃であった。
本来ならばこのジュラルミン製のグーテ小屋に泊まり、翌朝4時には山頂を目指し、余裕を持ってアタックする計画だった。それが悪天候のためにテートルース小屋泊となりクーロワール、急峻な岩稜帯を暗闇の中歩くのはあまりにも危険ということで出発も遅らせ、時間的には余裕がなくなってしまっていたのだ。
もちろん予備日も設けていたが。
ヨーロッパ・アルプスの登り方の考え方は攻撃的速攻だ。
時間と体力的な余裕があれば天候の良いときに一気にアタックをかける。
高度障害と天候の急変を乗り切る最良の策のようだ。
そのため歩き始めたらほとんど休むことなく歩き続け、山頂にたどり着きたければそれについていくしかないのだ。
グーテ小屋で大きなお椀に入ったココアを飲み身体を温め、頂上を目指して出発。視界良し微風の中、ドーム・デュ・グーテの広大な斜面を前に見ながら歩く。
左手にグランド・ジョラスなど鋭い峰々が白と黒の世界をなし、青空がアルプスのスカイラインをくっきりさせている。
急斜面になるとジグザグにサイドステップを切りながら登り続ける。
今回の登山の中で一番苦しかったのはこのサイドステップだ。単調な足の運びが慣れないためか急斜面で長時間続いた。
ドーム・デュ・グーテを巻くように登ってゆくと正面にモン・ブランの山頂、そしてヴァロの避難小屋(4362m)が目に入った。
ヴァロの避難小屋から何人かが現われると、そこに赤色の小型ヘリが飛んできて、あっという間に1人を乗せ稜線の下へと消え去った。
高度障害の人が出たのではないかとガイドが言う。
高度障害と言えば、今回の山行中、同パーティーで何人かのひどい障害に襲われている方が見られた。
1人は高度を下げても、しばらく正面に見える人の顔が半分までしか見えないという目の障害、またモンテローザの山頂付近で両足痙攣になり痛みと苦痛からヘリで搬送、麓の病院に入院するというすさまじ姿を目の当たりにしてきた。
私はと言うと比較的体調が良く山行を続けることができていた。
それでも4000mを越えると、身体がいつもとは違う重いような感じはあった。
登り続ける山頂への真っ白な世界。Kさんが少しバテ気味になり、ガイドの判断で今まで真ん中にザイルを組んでいた私を後へ、Kさんを中に入れて声をかけながら進んだ。
呼吸を整えるために立ち止まり、また一歩一歩前へとゆっくり登る。
風がかなり強くなってきた。雹のようなつぶつぶが強い風に乗って顔面にバシバシ突き当たってきた。マスク無しには進めない状況。さらに風は強まり身体が飛ばされないように踏ん張ることも多くなった。
腰を低くしてがに股で歩き、急斜面を滑り落ちないように上を目指す。
風は強まるが視界は良い。余裕もなくなってきていたが雪面ばかり見つめている目をちょっと横にずらすと、すでに周りの山々が低く見える。
打ち付けるような強風、雪の急斜面、そして高度・長時間連続歩行による体力低下、登高ははかどらないが急斜面を越えればナイフ・リッジに出る。空に向かって直線的に延びる美しい雪稜だ。両側とも切れ落ちていて気力を高め慎重に進む。このナイフ・リッジを登り切ると山頂だ。
アルプス最高峰モン・ブラン4807mに立つ。
山頂には手作りの木の十字架が唯一あるのみで白銀のピークだ。
360度の展望は登って来たつらさを一気に喜びへと誘ってくれた。モン・ブラン山群が足下に広がる。
モン・ブラン登頂目指してザイルをつないできた3人で喜びを分かち合う。
登ることのできた満足感というか、嬉しさが全身に湧き上がる感じだ。
そしてスイスのヴァリスを代表するマッターホルンが初めて挨拶してくれたのだ。次はマッターホルンだ。そんな思いも余裕なのか出た。
緯度も高く気候的な厳しさはヒマラヤの6000m〜7000m級の山に相当するそうだ。かつて登っている緯度の低いところにあるキリマンジャロやケニア山の高度はアルプスよりも高く、高度障害は出やすいものの風、雪、寒さなど気象条件が楽だったのは事実である。
いつまでも山頂からの眺めを楽しんでいたいが、下山を急ぐ。
雪も降り出し、急坂もアイゼンを履いていても滑るように下る。
かなり足にダメージが来る。途中ヴノアが下山を早めようと登って来たよりも右寄りにコースを取ったところクレバスに接近し、登り返すというミスも。結局登り返すということもあり、益々疲れが出てしまった。
自分のペースで下るより、引っ張られ降ろされる感じもありつらくなる。
あまりの下山の速さに、苦しく、つらい、足が持たない。
「トイレ!」
止めるのはこれしかなかった。下りでは唯一の休憩になった。
山頂方面を振り返ると、舞い上がる雪で白い煙に覆われる山頂。これを見てヴノアが少しでも登る歩みが遅ければ登頂はできなかったという。
私たち3人がファーストで、他のグループは登頂を諦め引き返すしかなかったようだ。
下る下るグーテ小屋が見えたときには安堵と登頂成功したという充実感が湧いてきた。
グーテ小屋で冷えた身体を温める。周りには落胆したような外国人が多く見られた。今日モン・ブランに登頂できたのは我々3人だけだったようで善望の的となり、しばし休み小屋を後にした。
最後の岩と雪の岩場をアイゼンにも慣れてきたが慎重に下り、観光客で賑わう登山電車に乗り麓のシャモニーの街へと戻った。
電車の中でも登頂したのかと聞かれ、成功したというと驚いたように祝う観光客が今でも思い出される。
長い一日だった。ほぼ12時間歩きづめのモン・ブラン。
登頂できたことは、すべてに運が良かったのだろうと思う。
本当に幸せなひとときであった。
ふるちゃん
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