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Yamareco

記録ID: 7809296
全員に公開
積雪期ピークハント/縦走
東海

【奥美濃】厳冬期 屏風山 ふたたび(南尾根から)

2025年02月15日(土) [日帰り]
情報量の目安: S
都道府県 福井県 岐阜県
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GPS
--:--
距離
21.3km
登り
2,058m
下り
2,055m

コースタイム

日帰り
山行
17:20
休憩
0:00
合計
17:20
3:30
120
駐車地(除雪終了地点)
5:30
100
根尾東谷右岸尾根の支尾根取りつき
7:10
120
P973
9:10
80
河内谷林道へ降り立つ
10:30
190
三等・小白味(△1036.6)
13:40
180
16:40
120
河内谷林道へ降り立つ
18:40
40
P973
19:20
90
根尾東谷の林道に降り立つ
20:50
駐車地(除雪終了地点)
かなり時間がかかっていますが,雪質が激モナカ(上部はグズグズの新雪)で非常に悪く,登りも下りもスピードが出せなかったせいが大きいです。雪質さえよければマイナス2時間くらいで登れるのではないかと思われます。
天候 晴れ
過去天気図(気象庁) 2025年02月の天気図
アクセス
利用交通機関:
自家用車
除雪は上大須ダムまで達しておらず,ダムの1kmほど手前まで。除雪終了点の付近の広いところに駐車。駐車スペースはあまりない。
コース状況/
危険箇所等
・ 積雪は上大須ダムで1mほど。山中に入ると2〜3mはある。ひどいモナカ雪で,全く沈まないかと思えば突然モモまで踏み抜くし,スノーシューは引っかかるしで,非常に不安定な悪雪に終始苦しめられた。
・ 上大須ダムの周回道路はところどころ雪崩デブリによる片斜面があるが,慎重に通過すれば大丈夫な程度。
・ 河内谷は水量が少なく,スノーシューのまま渡渉可能。
・ 南尾根は屏風山直下がかなり急峻で,両側が切れ落ちた急斜面がずっと続き,4年前の同じ時期に登った東側からの県境尾根(夏道の付いている尾根)よりも難度が高い。要ピッケル・アイゼン(ただ,今回は雪がかなり緩んでいて沈み込みが激しかったため,スノーシューで行動した)。雪が硬い場合はかなりの緊張を強いられると思われる。特に下降時の危険が大きいので,念のためロープは携行したほうがよい。
例年なら上大須ダムまで除雪が入っているのだが,除雪はダムの1kmほど手前までしか達しておらず,30分ほど追加の雪道歩行を課されることになった。やっぱり今年は雪が多いんだなぁ
例年なら上大須ダムまで除雪が入っているのだが,除雪はダムの1kmほど手前までしか達しておらず,30分ほど追加の雪道歩行を課されることになった。やっぱり今年は雪が多いんだなぁ
ダム周回道路はいくつか雪崩斜面ができていたが,慎重に通過すれば大丈夫
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ダム周回道路はいくつか雪崩斜面ができていたが,慎重に通過すれば大丈夫
バックウォーター付近は湖面が凍り付いていた
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バックウォーター付近は湖面が凍り付いていた
まずは河内谷に乗り越すべく,根尾東谷右岸尾根のP973の東尾根に取り付く。今日は雪質が最悪でひどいモナカ,モモに達する踏み抜きが多発するが辛抱して登っていく。
まずは河内谷に乗り越すべく,根尾東谷右岸尾根のP973の東尾根に取り付く。今日は雪質が最悪でひどいモナカ,モモに達する踏み抜きが多発するが辛抱して登っていく。
P973。このあたりは植林や細い木が多い。先日レイさんが行かれていた中土倉が見える。
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P973。このあたりは植林や細い木が多い。先日レイさんが行かれていた中土倉が見える。
そして目の前にドカーンと目指す屏風山! 何があっても登りたい気持ちに駆られる眺め。屏風山ってここから見ると双耳峰なんだなぁ。
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そして目の前にドカーンと目指す屏風山! 何があっても登りたい気持ちに駆られる眺め。屏風山ってここから見ると双耳峰なんだなぁ。
本日登る南尾根のルート(赤線)
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本日登る南尾根のルート(赤線)
一つ北のピークから河内谷に向けて下降していく
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一つ北のピークから河内谷に向けて下降していく
適当に下降していたらマズいラインで降りてしまい,下部がカチカチの雪崩急斜面でアイゼン・ピッケルのバックステップで降りる羽目になった。
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適当に下降していたらマズいラインで降りてしまい,下部がカチカチの雪崩急斜面でアイゼン・ピッケルのバックステップで降りる羽目になった。
河内谷林道は側壁からの雪崩に呑み込まれている。本当はもう少し上流へ林道を辿ってから屏風山の南尾根の支尾根に取り付く予定だったのだが,歩きにくそうだったので,目の前に降りてきている支尾根にすぐ取り付いてしまうことにした。
河内谷林道は側壁からの雪崩に呑み込まれている。本当はもう少し上流へ林道を辿ってから屏風山の南尾根の支尾根に取り付く予定だったのだが,歩きにくそうだったので,目の前に降りてきている支尾根にすぐ取り付いてしまうことにした。
中洲のキノコ雪にジャンプで飛びつき,河内谷を渡渉。
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中洲のキノコ雪にジャンプで飛びつき,河内谷を渡渉。
屏風山の南尾根の支尾根に取り付く。かなりの急斜面で,強い日差しを浴びた雪が緩んで沈み込みも激しくシンドい登りとなった。
屏風山の南尾根の支尾根に取り付く。かなりの急斜面で,強い日差しを浴びた雪が緩んで沈み込みも激しくシンドい登りとなった。
屏風山の南尾根に登り上げた。
屏風山の南尾根に登り上げた。
ここまで来ると植林は消え,太いブナも姿を見せるようになる
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ここまで来ると植林は消え,太いブナも姿を見せるようになる
三等・小白味(△1036.6)。期せずして踏んでしまったので,とりあえず写真。
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三等・小白味(△1036.6)。期せずして踏んでしまったので,とりあえず写真。
そして屏風山周辺ではお決まりの天然ヒノキ巨木。鍋又山で見たほどの巨木はないが,その奇怪な姿にはやはり目を見張る。
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そして屏風山周辺ではお決まりの天然ヒノキ巨木。鍋又山で見たほどの巨木はないが,その奇怪な姿にはやはり目を見張る。
何本も生えてるように見えるけど,たぶんこれで一本のヒノキなんだろうなぁ…
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何本も生えてるように見えるけど,たぶんこれで一本のヒノキなんだろうなぁ…
今日は白山もくっきりと見える
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今日は白山もくっきりと見える
一路,屏風山へ
小さなアップダウンがあり,意外にしんどい
小さなアップダウンがあり,意外にしんどい
屏風山が次第に近づいてくる
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屏風山が次第に近づいてくる
山頂の大雪庇も見分けられるくらいまで近づいてきたが… 山頂稜線の直下,めっちゃ急じゃない? 正面から見ているせいもあるだろうが,正直,「壁」にしか見えない。本当に登り切れるか,緊張が高まってくる。
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山頂の大雪庇も見分けられるくらいまで近づいてきたが… 山頂稜線の直下,めっちゃ急じゃない? 正面から見ているせいもあるだろうが,正直,「壁」にしか見えない。本当に登り切れるか,緊張が高まってくる。
赤線が登路。山頂稜線に突き上げる区間がかなり急
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赤線が登路。山頂稜線に突き上げる区間がかなり急
不安を抱えながらも,屏風山へと急ぐ。黒いヒノキが急に目立ってきたが,天然ヒノキが多いというのは,尾根が岩がちで,痩せている証拠だ。
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不安を抱えながらも,屏風山へと急ぐ。黒いヒノキが急に目立ってきたが,天然ヒノキが多いというのは,尾根が岩がちで,痩せている証拠だ。
遠目に見ていてもう一箇所不安だった県境稜線との合流部分は,予想通りかなりの急斜面で,しかもヒノキにひっかかった雪が雪壁となっていてちょっと面倒そう。
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遠目に見ていてもう一箇所不安だった県境稜線との合流部分は,予想通りかなりの急斜面で,しかもヒノキにひっかかった雪が雪壁となっていてちょっと面倒そう。
そのため,左手の県境稜線側にトラバースして逃げ,そちらから登る。
そのため,左手の県境稜線側にトラバースして逃げ,そちらから登る。
思ったより尾根に幅があって一安心。左門岳が見える。
3
思ったより尾根に幅があって一安心。左門岳が見える。
そしてついに,山頂稜線直下の急登部分が目前に。一気呵成に山頂稜線へと突き上げるその姿は,尾根というよりまさに「壁」だ。ストックは雪面に突き刺してデポし,ピッケルに持ち替える。
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そしてついに,山頂稜線直下の急登部分が目前に。一気呵成に山頂稜線へと突き上げるその姿は,尾根というよりまさに「壁」だ。ストックは雪面に突き刺してデポし,ピッケルに持ち替える。
登り出す。ぐんぐん高度が上がっていく。東側の屏風谷側はすっぱり切れており,雪庇に近づかないよう注意してラインを取る。
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登り出す。ぐんぐん高度が上がっていく。東側の屏風谷側はすっぱり切れており,雪庇に近づかないよう注意してラインを取る。
西側の中ノ水谷の源頭部も急峻で,特に下の方でストンと落ち込んでいるのが眼下に眺められ,あまり落ちたくないところ。雪庇の尾根の向こうに見えるのは能郷白山。
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西側の中ノ水谷の源頭部も急峻で,特に下の方でストンと落ち込んでいるのが眼下に眺められ,あまり落ちたくないところ。雪庇の尾根の向こうに見えるのは能郷白山。
ただでさえ急なのだが,ところどころヒノキの矮木に引っかかるように発達したキノコ雪が行く手を阻む。できる限り腕を上に伸ばしてピッケルを突き刺し,それを支点にして這い上がって足場を固め…を繰り返して乗り越していく。
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ただでさえ急なのだが,ところどころヒノキの矮木に引っかかるように発達したキノコ雪が行く手を阻む。できる限り腕を上に伸ばしてピッケルを突き刺し,それを支点にして這い上がって足場を固め…を繰り返して乗り越していく。
後ろを振り向くと,寒気がするような高度感。帰りは,これを下らないといけないんだよな… そうと思うと気が重くなるが,それを振り切るようにして登り続ける。
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後ろを振り向くと,寒気がするような高度感。帰りは,これを下らないといけないんだよな… そうと思うと気が重くなるが,それを振り切るようにして登り続ける。
ここで衝撃の出来事。左手の中ノ水谷側から突然轟音が響いてきたと思ったら,なんと自分のすぐ真横の谷中で雪崩が発生。結構大きな雪崩で,30秒くらいは雪の奔流が止まらなかった。写真は収まりかけのところなので少ししかデブリが写っていないが…。ちょうど代替ルートとして中ノ水谷の上部斜面のトラバースも考えていた矢先だったので,戦慄が走った。
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ここで衝撃の出来事。左手の中ノ水谷側から突然轟音が響いてきたと思ったら,なんと自分のすぐ真横の谷中で雪崩が発生。結構大きな雪崩で,30秒くらいは雪の奔流が止まらなかった。写真は収まりかけのところなので少ししかデブリが写っていないが…。ちょうど代替ルートとして中ノ水谷の上部斜面のトラバースも考えていた矢先だったので,戦慄が走った。
目の前で大きな雪崩が起こったことで,周囲の斜面の雪崩リスクが高いことが分かったので,余計緊張が高まる。ピッケルを深く突き刺し,蹴り込んだ足の安定を確かめながら,強い高度感の中をじりじり登っていく。
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目の前で大きな雪崩が起こったことで,周囲の斜面の雪崩リスクが高いことが分かったので,余計緊張が高まる。ピッケルを深く突き刺し,蹴り込んだ足の安定を確かめながら,強い高度感の中をじりじり登っていく。
左手の中ノ水谷に落ち込む尾根のスカイラインが美しい。その向こうは能郷白山。
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左手の中ノ水谷に落ち込む尾根のスカイラインが美しい。その向こうは能郷白山。
さきほどの雪崩の破断面が見えてきた。うわ,全層雪崩やん…。今日は2月には珍しく雲一つない快晴で,気温が上がったので,一気に雪崩れたのだろう。
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さきほどの雪崩の破断面が見えてきた。うわ,全層雪崩やん…。今日は2月には珍しく雲一つない快晴で,気温が上がったので,一気に雪崩れたのだろう。
山頂稜線への最後の斜面。ここが特に急で,ほぼ雪壁と言っていいレベル。先ほど雪崩を見たばかりなので,中ノ水谷側の斜面をからむことは考えられない。直登あるのみ。慎重に登っていく。
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山頂稜線への最後の斜面。ここが特に急で,ほぼ雪壁と言っていいレベル。先ほど雪崩を見たばかりなので,中ノ水谷側の斜面をからむことは考えられない。直登あるのみ。慎重に登っていく。
最後の急登を登り切り,山頂稜線に立った。
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最後の急登を登り切り,山頂稜線に立った。
南峰へと細い稜線を慎重に辿る。登ってきた斜面の傾斜が強すぎて,山頂稜線だけが宙に浮かんだようになっている。帰路の下降時の不安が再び頭をよぎるが,とにかく今は山頂へと急ぐ。
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南峰へと細い稜線を慎重に辿る。登ってきた斜面の傾斜が強すぎて,山頂稜線だけが宙に浮かんだようになっている。帰路の下降時の不安が再び頭をよぎるが,とにかく今は山頂へと急ぐ。
南峰に立つと,ついに山頂が見えた。南峰から先は思ったより稜線が広く,安心した。
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南峰に立つと,ついに山頂が見えた。南峰から先は思ったより稜線が広く,安心した。
山頂直下の大雪庇を眺めながら,山頂へ。
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山頂直下の大雪庇を眺めながら,山頂へ。
屏風山山頂。2021年2月に東側の県境尾根から登って以来,2回目の厳冬期の屏風山。背景は左門岳と平家岳。(大雪庇が発達しているので,山頂の端にはこれ以上近づけない)
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屏風山山頂。2021年2月に東側の県境尾根から登って以来,2回目の厳冬期の屏風山。背景は左門岳と平家岳。(大雪庇が発達しているので,山頂の端にはこれ以上近づけない)
こちらは白山。
白山,手前は大長山。
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白山,手前は大長山。
先週,大雪の最中にホワイトアウトで登れなかった荒島岳が美しい。今日は多くの人でにぎわっているだろう。
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先週,大雪の最中にホワイトアウトで登れなかった荒島岳が美しい。今日は多くの人でにぎわっているだろう。
個人的にお気に入りの山,鍋又山。しかし,屏風山から見ると,右のP1187のほうが形良く尖っているのが面白いですね
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個人的にお気に入りの山,鍋又山。しかし,屏風山から見ると,右のP1187のほうが形良く尖っているのが面白いですね
中ノ水谷に落ち込む西尾根も興味深いが,美しさは南尾根のほうが上かなぁ
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中ノ水谷に落ち込む西尾根も興味深いが,美しさは南尾根のほうが上かなぁ
北尾根も面白そう
北尾根も面白そう
そう簡単に来られる山頂ではないので,ゆっくりしたかったが,日没まで時間がないのと,何より急登区間の下降への不安が大きく,どうしてもそわそわしてしまう。名残惜しくはあるが,早々に下山を開始。
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そう簡単に来られる山頂ではないので,ゆっくりしたかったが,日没まで時間がないのと,何より急登区間の下降への不安が大きく,どうしてもそわそわしてしまう。名残惜しくはあるが,早々に下山を開始。
山頂稜線を引き返していく。
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山頂稜線を引き返していく。
屏風山よ,さようなら。またこの時期に来ることはあるだろうか。そう思うと,余計に名残惜しい。
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屏風山よ,さようなら。またこの時期に来ることはあるだろうか。そう思うと,余計に名残惜しい。
さあ,こいつを下る。雪崩の危険が大きい今,代替ルートや迂回ルートは選択できない。脚下に開ける大空間に寒気がするが,慎重に下っていく。
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さあ,こいつを下る。雪崩の危険が大きい今,代替ルートや迂回ルートは選択できない。脚下に開ける大空間に寒気がするが,慎重に下っていく。
バックステップを交えつつ,ゆっくりと下降していく。トラバース気味の箇所では足元から盛んにスノーボールが落ち,ヒヤヒヤするが,幸いなことに雪面が動き出すことはなかった。今日は雪が緩んでいるのでロープは出さずに済んだが,気温が低く雪が硬い場合は相当な緊張を強いられるだろう。
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バックステップを交えつつ,ゆっくりと下降していく。トラバース気味の箇所では足元から盛んにスノーボールが落ち,ヒヤヒヤするが,幸いなことに雪面が動き出すことはなかった。今日は雪が緩んでいるのでロープは出さずに済んだが,気温が低く雪が硬い場合は相当な緊張を強いられるだろう。
急登区間をなんとか無事下り切った。あとは歩くだけだ。たとえ闇下になっても問題ない。根尾東谷右岸尾根への悪雪の登り返しは思いやられるが…
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急登区間をなんとか無事下り切った。あとは歩くだけだ。たとえ闇下になっても問題ない。根尾東谷右岸尾根への悪雪の登り返しは思いやられるが…

装備

備考 ・ スノーシュー使用
・ 状況に応じてピッケルも使用。アイゼンは携行したが雪が緩んでいたため使用しなかった。
・ 20m補助ロープ携行(今回は使用せず)

感想

 奥美濃や越美山地には,冬期に道路の封鎖により極端に遠くなる山がいくつかあるが,福井・岐阜県境にそびえる屏風山はその最たるものの一つと言っていい。どこから登るにしても,往復20km以上の行程と相当なアップダウンを覚悟しなければならない。
 厳冬期のこの山には,2021年2月に左門岳を経由して東側の県境尾根から登った。その際に,山頂から美しい雪庇を連ねた南尾根を眺めて,もし次に同じ時期に登る機会があるとしたら,この南尾根から登ってみたいと思っていた。
 しかし,この南尾根は,地形図を見ると分かるとおり,冬期には完全に孤立してしまう尾根である。うまいアプローチをなかなか思いつけない。
 そのため屏風山南尾根はしばらくお蔵入りとなっていたのだが,ネット上で見つけたある山行記録に,一つの素晴らしいルートを啓示していただいた。その記録とは,大垣山岳協会の丹生統司氏が2022年3月に行われた冬季屏風山登山の記録である(その文章から滲み出る深い奥美濃への愛は,私のような若輩には到底及ぶべくもない境地である。必読!)。氏は私と同じく左門岳を経由した東側からの県境尾根ルートで屏風山に登られているが,計画段階で予定していた(しかし実際には採用しなかった)ルートも記録内に図示されており,それが今回の山行ルートとほぼ同じものである。確かに河内谷流域への乗り越しによって生じる大きなアップダウンはあるものの,そのラインは直線的であり美しい。そして何より,無駄なく自然に南尾根から山頂に立つことができる。このルートに魅せられ,僭越ながら今回の山行ルートとしてアイデアをお借りすることになった。
 屏風山南尾根は,奥美濃随一のピラミダルな山容を誇る屏風山にふさわしく,尾根というより壁と呼んだほうがしっくり来るような,ひたすら急峻な稜であった。4年前に登った東側からの県境尾根ルートよりも確実に難度は高く,おそらく屏風山の冬季尾根ルートとしては最も険しいと思われる。脚下に広がる背筋が寒くなるような大空間の中,まさに自分の真横で発生した中ノ水谷の雪崩にも脅かされながら,ピッケルを握る拳にも自然と力が入った。青空に向かって反り上がるような最後の急登を登り切り,腕をめいっぱい伸ばして山頂稜線の上にピッケルを突き刺したとき,ほっとした気持ちとともに,「登った」という感慨がじんわり湧いてきた。
 久々にその上に立った,遠い遠い冬季屏風山の山頂。しかし,不思議と懐かしさは湧いてこない。見慣れない双耳峰として近づいてくる屏風山のシルエット,予想以上に急峻だった南尾根,そして南峰から眺める美しい山頂稜線。今回見る風景は自分にとって新しいものばかりで,まるで初めて登る山のようだった。一つの山が登るルートによって全く違う山として現れてくる,その表情の豊かさには何度となく驚かされる。
 周囲をぐるりと取り囲む山々を眺めながら,ゆっくりと感慨にふけりたいし,また感慨にふけるべき山頂であるのに,様々な焦りが私をじっとさせてくれない。日没まであまり時間がないし,それに何より,山頂稜線直下のあの急峻な稜を,今度は下降しなければいけないという不安もあった。休憩もそこそこに,そそくさと下山を始めたあと,最後に振り返ると,早くも傾きはじめた冬の日に,さっきよりも斜めに照らされた山頂が寂しげに見えて,もうこの時期にこの山頂に来ることはないかもしれないと思うと,何だか無性に名残惜しい気持ちにとらわれた。山頂というものは,その上に立っている時よりも,むしろ下山中にふと振り返って眺めたときに初めて,自分の心の中に深く根を下ろすものなのかもしれない。そんなことを思いながら,ピッケルを握り直しつつ,南尾根の下降へと足を踏み出した。

 最後に,今回の山行に重要な啓示を与えてくださった,大垣山岳協会の丹生様に厚く御礼を申し上げます。

【関連記録】
2021年2月に左門岳〜県境稜線から屏風山に登った際の記録はこちら
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-2923905.html

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