【奥越】姥ヶ岳の「うばが岩」探索 (犬振谷左俣&右俣 遡下降)


- GPS
- --:--
- 距離
- 8.6km
- 登り
- 897m
- 下り
- 896m
コースタイム
- 山行
- 10:00
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 10:00
天候 | 曇りのち雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2025年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
奥越の名山の一つである姥ヶ岳は、山姥の住む「うばが岩」と呼ばれる洞穴が山名の由来と言われている。山頂付近にあるらしいが実際に訪問したという話を聞いたことのないこの謎の洞穴を、犬振谷の奥に探った記録。 ・ 犬振谷の二俣までは基本的に穏やかだが、ところどころ現れるナメの美観が印象的。二俣以降については、左俣はほとんど目立った滝がなく概ね平凡である一方、右俣はナメや滝がそこそこ出てきて楽しめる。本来なら今回の回り方とは逆に、右俣を遡行し左俣を下降するのがまっとうかと思う(今回は左俣の岩場を探索するのが目的だったので、仕方ないけど)。なお、右俣も左俣もやや藪っぽさがつきまとう。 ・ 滝場はどれも容易に直登or巻けるので、遡行はそれほど難しくない。今回ロープも使わなかったが、それなりに険しい箇所もあるので、一応携行したほうが良い。 ・ ヌメリがやや強い印象だったので、フェルトソールがおすすめ。 |
写真
感想
姥ヶ岳は、北西に広がる平家平のブナや大トチ、そして春のオウレンやミズバショウの群生で知られる福井の名山である。
姥ヶ岳という山名は、この山に伝わる山姥伝説に由来すると言われている。以下、「越前若狭の伝説」(杉原丈夫編、昭和45年刊)から関連する民話を抜粋。
〇 山うば(一) (小沢)
小沢のうばが岳の頂上近くにうばが岩という美しい岩のほら穴がある。入口は小さいが中は広い。ここに山うばが住んでいて、はたを織っていた。(以下略)
〇 山うば(二) (小沢)
西谷の小沢のうばが岳には、三間も四間もある大きな岩がガシンと組み合っている所がある。そこにうばが住んでいた。そのうばはときどき小沢の村へ出て来てオ(注・苧、からむしのこと)をうんだ。(以下略)
以上の民話によると、どうやら姥ヶ岳の山頂のあたりに「うばが岩」と呼ばれていた洞穴があり、そこに山姥が住んでいたということらしい。それでこの山自体も「姥ヶ岳」と呼ばれていたようだ。
この「うばが岩」のことが気になり、もしかして姥ヶ岳の人気スポットになってたりして?と思ってネットでいろいろと検索してみたが、全く情報は出てこなかった。どうやら、少なくとも近年は、この「うばが岩」を実際に見た人はいないらしい。もちろん、この伝説自体が里人たちの想像力が生み出した全くのフィクションで、「うばが岩」なるものも実際には存在しない可能性もある。しかし、上記の口承の中で、「入り口は小さいが中は広い」とか、「三間も四間もある大きな岩がガシンと組み合った所がある」とか、描写が妙に具体的なのが実に気になる。実際に山姥が住んでいたかどうかは別にして、そのような伝説を生み出す素地になる場所、つまり「うばが岩」と呼ばれる岩場(洞穴)自体は実在している可能性が高いのではないか、そう考えた。
それでは、この「うばが岩」は一体どこにあるのだろう?
ヒントはいくつかある。まず、上記で引用した民話において、姥ヶ岳はすべて「小沢のうばが岳」として語られている。ここで言う小沢は、姥ヶ岳の北東側、笹生川支流の小沢川沿いにあった小沢集落(笹生ダムによる水没で廃村)のことであり、往時の人々にとっては、まず姥ヶ岳は「小沢の山」という認識があったらしい。物語の中に登場する山姥も、(上記の引用では長いので省略してしまったが)ときどき小沢の村に出て来ては牛を盗んだり、はたまた村人の機織りやあずき研ぎを手伝ったりと、もっぱら小沢を活動範囲としている。つまり、山姥の棲み家である「うばが岩」は、山姥が小沢に降りてきやすい(と、民話の語り部である小沢の村人たちが想像しやすい)小沢側の斜面(姥ヶ岳の東側の斜面)に存在していると考えるのが自然なように感じる。
さらに、上記の民話では、(これも引用では省略してしまった部分だが)「うばが岩」が常にクマと絡めて語られていることも興味深い。クマが「うばが岩」の門番をしていたり、小沢の村人たちがクマ狩りをしているとクマが「うばが岩」の中に隠れ、山姥がそれをたすきで縛って外に出してくれたり、といった具合である。もしかしたら、「うばが岩」は、山姥の棲み家であると同時に、小沢の村人たちのクマ狩りの対象となるクマの巣穴でもあったのかもしれない(このあたり、美濃徳山の「ベロリ穴」の伝説ともオーバーラップして興味深い)。このことからも、やはり「うばが岩」の所在地は、小沢のクマ猟師たちの縄張りである姥ヶ岳の小沢側斜面(東側斜面)であると考えられないだろうか。
さて、「うばが岩」が姥ヶ岳の大体どちら側の斜面にあるのかはなんとなく絞られてきた?気がするが、しかし対象エリアは未だに広大であり、その中から一つの岩場を探し出すのは大変な作業…と思いきや、意外にあっさりと候補地が見つかってしまった。2万5千分の1地形図を見ると、姥ヶ岳の東側の山頂直下に、一つの岩記号がばっちり描かれていたのである。これじゃね!?
ということで、今回の山行。姥ヶ岳の東側、犬振谷左俣の源頭付近にある岩記号を目指す。行ったことのない犬振谷の沢登りも楽しめて、一石二鳥である。
犬振谷は遡行記録の少ない谷で、「越の谷」にも掲載されておらず、ネット上ではベルグラ山の会の会員の方の記録があるくらいである(その記録もごくあっさりした内容であるため、どんな谷なのかほんの少ししか分からないところが、また嬉しい)。こんな谷なので、ほとんど何もない凡谷なのかもしれないと思っていた。実際、大半は穏やかな谷なのだが、ところどころで美しいナメが現れ、その予想外の美観が印象的な谷だった。特に右俣は滝とナメがそこそこ出てきて、沢登り的にも普通に楽しいです。藪っぽいのはご愛敬。ちなみに左俣は平凡。
沢登りの話はこれくらいにして、肝心の「うばが岩」探索はどうだったのか。驚いたのが、犬振谷の左俣の源頭部は、岩記号どころか、岩記号以外の場所も岩だらけだったことである。右俣のほうは両岸が穏やかで岩場が全く見当たらなかったことと比べても、この左俣の岩っぽさは特異的である。これなら山姥の洞穴伝説が生まれてもおかしくはないし、クマ狩りの対象になるクマ穴にも事欠かなかっただろう。伝説の素地としては十分である。
地形図の岩記号の箇所にも、実際にピンポイントで巨大な岩場が存在していた。そして、その岩場に食い込む小さなルンゼの奥で、ついに洞穴らしきものを発見。実際には奥行き5m程度で、上記の民話で言う「入口は小さいが、中は広い」からするとやや奥行き不足で残念だったが、もう一方の民話の「三間も四間もある大きな岩がガシンと組み合っている」という描写に関してはいい線行っているように見え、雰囲気は十分だった(少なくとも、冬はリアルにクマが冬眠に使っていそう)。
今回見つけた洞穴が伝説の「うばが岩」なのか、それは分からない。むしろ、これくらいの規模の穴であれば、犬振谷左俣に点在する岩場を探せば他にも2、3は見つかりそうであり、それらの穴を集合的に「うばが岩」と称していたのかもしれない。
しかしやはり、民話の描写に完璧に合致するような真の「美しい岩のほら穴」が、この山のどこかにまだ眠っていると夢見てみたい気もする。今回の山行で、犬振谷がなかなか独特な雰囲気の面白い谷だということも分かったし、近隣の他の谷にも今後入ってみようと思う。もちろん、「うばが岩」の再探索も兼ねて。
※ 姥ヶ岳の「うばが岩」の所在をご存じの方、大真面目に無駄な探索を行ってしまったhillwandererを小馬鹿にしつつ是非情報をお寄せください! または、今回の記録で引用したもの以外の伝説や口承に関する情報提供もお待ちしております。
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