権現山〜武奈ヶ岳☆南比良へのご来光登山のつもりが


- GPS
- 04:57
- 距離
- 17.6km
- 登り
- 1,654m
- 下り
- 1,796m
コースタイム
- 山行
- 4:41
- 休憩
- 0:16
- 合計
- 4:57
過去天気図(気象庁) | 2023年09月の天気図 |
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アクセス |
写真
感想
先週末の剣山の縦走から京都の自宅に戻ると義理の父の容態が急変し、その夜のうちに鬼籍に入ることになった。義理の父は晩年には琵琶湖を眺めることが出来る家に住みたいという希望があったそうだが、入院していた病院の病室からは琵琶湖の景色が広がっており、家内によると容態が悪化する前は良く琵琶湖の景色を眺めていたらしい。
この週末の日曜日は晴天が期待できそうだ。午後からはピアノのリサイタルを聴きにいく予定があるので、久しぶりに早朝の南比良の稜線からの琵琶湖の景色を眺めに行くことにする。
前夜に目覚ましをセットせずに就寝してしまうが4時過ぎに目が醒める。本来は4時には出発したいとところではあったが、今から身支度を整えて出発しても、権現山からの日の出の時間には十分に間に合うだろう。平の集落に到着したのは4時50分頃であった。近畿自然保歩道の林道の道路余地に車を停めて出発する。
平からは権現山の山頂にほぼ一直線に向かう尾根に取り付く。この尾根を通るのも既に20回ほどになっただろう。尾根には一般登山道やテープの類いはない。辛うじて細い踏み跡が続いているが、踏み跡を少しでも外すと馬酔木の濃厚な藪に捕まる羽目に陥る。何度か馬酔木の藪に進路を阻まれては踏み跡を探し求めて引き返すということを繰り返す。
尾根のほぼ中間地点、標高点752mのあたりは植林帯の下部に相当するが、数年前の台風による倒木の集中地帯がいまだに処理されないままになっている。尾根の左手を通過して倒木帯をバイバスすると、後半は植林の尾根の急登となり、一気に高度を上げる。尾根を登るうちに急に空が明るくなっていく。
権現山の山頂にたどり着くと琵琶湖を取り巻く市街地には夜の残滓のような街灯りがわずかに残っていた、東の空は完全に雲で覆われ、この日の朝はご来光どころか朝焼けする期待できないようだ。上空には雲がないのだが、太陽が東の空に広がる雲の上に顔を出すまでにはかなりの時間を要することだろう。
法華山に向かうと東の空がわずかに朝焼けに染まっている。その朝焼けの空を背景に伊吹山の左手に御嶽山のシルエットが浮かび上がっている。わずかな朝焼けの空を映して、琵琶湖の湖面がラヴェンダー色に染まってゆく。
小女郎峠への稜線ではところどころにススキの穂が風にそよいでいる。この時間帯に法華山から蓬莱山に向かうと小女郎峠あたりの笹原では草を食んでいる鹿の群れを数多く見かけることが多いのだが、この日はどうしたわけか鹿の姿を一頭も見かけない。やがて雲の彼方で朝日が上がったようだ。上空の雲が黄金色に輝き始め、琵琶湖の湖面には金属的な輝きが広がってゆく。
蓬莱山の山頂に到達すると、空気が澄んでいるせいだろう、御嶽山の左に視線を移すと乗鞍岳、さらにその左手に穂高岳と大キレットを挟んで槍ヶ岳の鋭鋒を認めることが出来る。さらに北には白山のシルエットが綺麗に見えるは云うまでもない。
山頂から武奈ヶ岳を眺めるうちに、当初はここで引き返して平に下山するつもりであったが、武奈ヶ岳まで縦走して坊村に下山する可能性を考える。坊村を通過する京都バスの時間は9時51分。武奈ヶ岳に8時半過ぎに到着すればバスの時間までに坊村に下山することだ可能だろう。時間は6時半過ぎ、果たしてここから武奈ヶ岳まで2時間でたどり着くことが出来るか。頭の中でコースタイムを計算する。あと30分あれば余裕があっただろうが、快足で飛ばせばなんとかなるかもしれない。無理と判断すれば金糞峠から大橋、牛コバを経て下山するか中峠を経てワサビ峠に向かうというエスケープ・ルートも考えられるので、とりあえず武奈ヶ岳に向かうことにする。
まずは打見山に向かう。リフトが営業している間は到底ここを歩く気にはなれないのだが、ここを気兼ねなく歩くことが出来るのも早朝のこの時間ならではと言えるだろう。鞍部から打見山に向かう登山道は工事のために通行止めとなっていた。リフトの西側の林道を歩いて打見山に向かう。
打見山からはゲレンデを一気に下降して、木戸峠に至る。ゲレンデを下るというのはなんとなく落ち着かないのだが、登山道に入るとなんとなく一安心する。比良岳にかけては短い区間ではあるが、南稜に刻まれた複数の小さな谷と丘陵のせいで、複雑な地形の妙を楽しめるところだ。下生のないブナの樹林の林床にはところどころに岩姫蕨の群生が広がり、比良山系の中でもとりわけ林相の良いところだと思う。表比良の縦走路は比良岳の山頂をバイバスしてその東側を通過することになるが、ここは勿論のこと比良岳のピークを目指す。
緩やかな斜面を比良岳を目指して登ってゆくと柔らかな朝陽の木漏れ日が樹林の中を明るく輝かせる。比良岳の山頂には山名標が設けられていた。以前はこの山名標はもう少し東の縦走路との分岐部に設置されていたものと思われるが、本来はこの山頂に設置されるべきものだろう。
比良岳からは葛川越を返して烏谷山への急峻な登り返しが待っている。烏谷山の山頂に立つと、南比良峠、コヤマノ岳を経て武奈ヶ岳へ至るルートの全容を俯瞰することが出来るが、金糞岳の向こうにある筈の金糞峠がなんとも遠く感じられる。時間を確認すると7時26分。当初の目論見よりも時間が遅れている。
荒川峠、南比良峠にかけて小さなアップダウンを繰り返す。一面に岩姫蕨の群生が広がる南比良峠からはいつもは堂満岳の南尾根を登るので、西側をトラバースする表比良縦走路を歩いた憶えがないのだが、この日はさすがに堂満岳に寄り道している余裕はない。アップダウンの少ないトラバース道を進む。金糞峠に到着すると数人の登山者が休憩しておられた。
時間は7時56分、ここは武奈ヶ岳を諦めるかどうかの分かれ目ではあるが、武奈ヶ岳までは45分ほどで到着できるだろうと見込む。8時40分までに山頂に到着することが出来れば、坊村までは1時間少々で下山できるという皮算用である。
ここから武奈ヶ岳にかけては先月、HB1214さんの還暦記念かつ武奈ヶ岳の百回目の登山に同行させて頂いた際に歩いたところだ。その時には奥ノ深谷の上流に架かる木橋が流されていたのだが、なんと立派な橋が新たに架け直されていた。橋を整備して下さった方に頭が下がる思いだ。
ヨキトウゲ谷を経て上林新道新道に入ると、前回は濃い霧の立ち込める幻想的な景色の中をkol-yosikokaさんの影を追いながら登っていったのだが、この日は湿度が低く、木漏れ日の落ちる樹林は全く違う雰囲気に包まれていた。高度が上がるにつれ微風がますます涼しく感じられる。
コヤマノ岳の山頂からは琵琶湖に反射する朝陽の反射が眩しく感じられる。朝の曇天が嘘のように思えるほど、上空には蒼穹が広がり、琵琶湖にも蒼い湖面が広がっている。あらためて自分もこの琵琶湖の景色が眺めるのが好きなのだということを再認識する。滋賀県の山々に大きな魅力を感じるのも、山々から眺める琵琶湖の魅力によるところが大きいのだろう。
あとは武奈ヶ岳まで10分ほどだろう。パノラマ・コースへの分岐ではトレラン・スタイルの男性と出遭うが、すれ違いざまに「比良トレイルに出るんですか?」と声をかけられる。なんのことか理解するまで多少の時間を要したが、どうやらそのようなトレランの大会があるようだ。私が先を急ぐのは大会の練習をしているのではなく、バスの時間を気にしているだけなのだ。
武奈ヶ岳まで一気呵成に登り詰めると、山頂にたどり着いた時には珍しく他の登山者は誰もいなかった。伊吹山の左手には相変わらず御嶽山と乗鞍岳が姿を見せており、その左手には槍・穂高のシルエットを確認することができる。この時間まで北アルプスが見えるというのは相当に空気が澄んでいるのだろう。霊仙山の左手には早朝には雲がかかっていたが、恵那山のシルエットを認めることが出来る。
武奈ヶ岳からの展望に見惚れているうちに瞬く間に時間が過ぎてゆくが、今朝はあまりのんびりしてはいられない。坊村のバスの時間までは1時間とわずか・・・とはいえ、急ぎ足であれば大概はそれくらいの時間で下降しているので、なんとかバスの時間に間に合うだろう。
樹木のない西南稜を降り始めると、急に太陽の陽射しが強く感じられる。この武奈ヶ岳に至るまではほとんどが樹林帯の中を歩いていたので、陽射しの強さが気にならなかったのだろう。この時間まで歩くつもりがなかったせいもあって、この日は焼け止めを携行してこなかったのであった。
明王院に至るまで続々と登ってくる登山者と数多くすれ違う。中には中学生と思しき数人の若者達もいた。私が初めて友人と山に登ったのも彼等と同じ年頃だったかと、ふと昔のことを思い出した。下るにつれて多少は気温が少々するが、それでも清々しい秋の空気は坊村に至るまで続いていた。
坊村のバス停に到着したのは9時49分、なんと丁度、堅田行きの江若バスが到着するところだった。昔は江若バスは京都バスよりも15分ほど後を走っていたのだが、ダイヤが改正されたらしい。利用者の立場からすると京都バスとは時間を空けて欲しいものだが、バス会社同士で融通を効かせるつもりはないのだろう。
平のバス停で降りるとバス停の前の露天で多くの野菜や漬物などが安く売られていた。万願寺とうがらし、よもぎもちに奈良漬、しば漬け、山椒味噌など色々と買い込む。この時間帯にここを通過することがなかったせいもあって、これまでにここで買い物をすることがなかったのだが、この露天を知ることが出来たのも今回のバスを使った周回山行の賜物といえるだろう。
午後になると陽射しはさすがに強く、街中には残暑が戻ってきたようだった。この日の午後のリサイタルは今年の春先にステージIVの進行肺癌が見つかり、その時点で余命一年半と宣告されたピアニストによるものだった。全ての演奏が終わってから「余命が限られるからこそ一日一日を丁寧に生きることになり充実感を感じる日々です」という言葉が心を打つ。私も余命を宣告されることがあったら、何をするだろうか・・・と考えてしまう。体力がある限り、まずは比良の山に朝の琵琶湖の景色を眺めに来るのではないだろうか。
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