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Yamareco

記録ID: 5283884
全員に公開
積雪期ピークハント/縦走
磐梯・吾妻・安達太良

安達太良山〜鉄山〜箕輪山☆静寂の安達太良連山を縦走

2023年03月19日(日) [日帰り]
 - 拍手
体力度
4
1泊以上が適当
GPS
06:19
距離
16.2km
登り
1,169m
下り
1,163m
歩くペース
とても速い
0.60.7
ヤマレコの計画機能「らくルート」の標準コースタイムを「1.0」としたときの倍率です。

コースタイム

日帰り
山行
5:28
休憩
0:55
合計
6:23
距離 16.2km 登り 1,170m 下り 1,172m
8:38
43
9:21
8
9:29
23
9:52
9:54
33
10:27
10:36
15
10:51
10:56
1
10:57
6
11:03
25
11:28
11:35
8
11:43
11:48
11
11:59
12:00
22
12:22
12:29
9
12:38
12:39
21
13:00
13:06
9
13:15
13:16
21
13:37
13:38
6
13:44
10
13:54
14:02
6
14:08
14:10
12
14:22
14
14:36
24
15:00
1
15:01
ゴール地点
天候 晴れ
過去天気図(気象庁) 2023年03月の天気図
アクセス
利用交通機関:
電車 バス タクシー
二本松からタクシーで登山口へ (\5880)
下山後は登山口からタクシーで岳温泉へ(\2290)、岳温泉からはバスで二本松へ(\500)
コース状況/
危険箇所等
・火口縁は全体的に尾根がひろく歩きやすい
ただし強風地帯
・鉄山の登りが核心部
前日の雪で取付きにそれなりの積雪があったが、マーキングを頼りにのぼればそれほど難しいことはない
・鉄山〜箕輪山は積雪が深く, スノーシューで歩行
・箕輪山ののぼりは尾根の西側に夏道あり
鉄山からは夏道が見えにくい、雪が十分にあれば東側の雪原を直登可能
東北本線の車窓より
安達太良山を望んで
2023年03月19日 08:07撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
3
3/19 8:07
東北本線の車窓より
安達太良山を望んで
スキー場は先週で営業を終了
トレースを辿ってゲレンデをのぼる
2023年03月19日 08:44撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 8:44
スキー場は先週で営業を終了
トレースを辿ってゲレンデをのぼる
薬師岳へのゲレンデへは向かわず
右手の樹林帯へ
2023年03月19日 08:57撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 8:57
薬師岳へのゲレンデへは向かわず
右手の樹林帯へ
ゲレンデ上部より
2023年03月19日 09:10撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
3/19 9:10
ゲレンデ上部より
雪の花が咲く低木の樹林帯へ
2023年03月19日 09:14撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
3/19 9:14
雪の花が咲く低木の樹林帯へ
樹林を抜ける
2023年03月19日 09:17撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 9:17
樹林を抜ける
松の疎林が広がる好展望の緩斜面に
前方には薬師岳
2023年03月19日 09:20撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
3/19 9:20
松の疎林が広がる好展望の緩斜面に
前方には薬師岳
五葉松平と呼ばれるところ
背後に安達太良山の山頂を望んで
乳首山とよばれるのも納得
2023年03月19日 09:24撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
6
3/19 9:24
五葉松平と呼ばれるところ
背後に安達太良山の山頂を望んで
乳首山とよばれるのも納得
薬師岳より
左より安達太良山、鉄山、箕輪山
2023年03月19日 09:33撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 9:33
薬師岳より
左より安達太良山、鉄山、箕輪山
「この上の空がほんとの空です」の有名な標柱
2023年03月19日 09:33撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 9:33
「この上の空がほんとの空です」の有名な標柱
スノーモンスター達の間を縫って
2023年03月19日 09:34撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 9:34
スノーモンスター達の間を縫って
再び安達太良山の山頂がみえてきた
2023年03月19日 09:40撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
4
3/19 9:40
再び安達太良山の山頂がみえてきた
薬師岳からの尾根を振り返る
2023年03月19日 09:53撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 9:53
薬師岳からの尾根を振り返る
雪煙の舞う山頂部
2023年03月19日 10:04撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
3/19 10:04
雪煙の舞う山頂部
山頂に
峰の辻の方から大パーティが到着される
2023年03月19日 10:24撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 10:24
山頂に
峰の辻の方から大パーティが到着される
山名標の標柱
パーティーが登られる前にこの山頂に
2023年03月19日 10:27撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 10:27
山名標の標柱
パーティーが登られる前にこの山頂に
山頂の祠
2023年03月19日 10:30撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 10:30
山頂の祠
西吾妻山(中央)を望んで
2023年03月19日 10:31撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
3/19 10:31
西吾妻山(中央)を望んで
これから辿る鉄山方面
2023年03月19日 10:32撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 10:32
これから辿る鉄山方面
南に和尚山
この山への縦走も気持ちよさそうだ
2023年03月19日 10:33撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 10:33
南に和尚山
この山への縦走も気持ちよさそうだ
山頂を振り返って
2023年03月19日 10:49撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 10:49
山頂を振り返って
沼の平と呼ばれる火口原
2023年03月19日 10:53撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 10:53
沼の平と呼ばれる火口原
再び山頂を振り返る
2023年03月19日 11:06撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 11:06
再び山頂を振り返る
鉄山へ
2023年03月19日 11:09撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 11:09
鉄山へ
雪煙の舞う稜線
このあたりはかなりの暴風だった
2023年03月19日 11:10撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 11:10
雪煙の舞う稜線
このあたりはかなりの暴風だった
いざ鉄山へ
2023年03月19日 11:17撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 11:17
いざ鉄山へ
安達太良山を振り返る
2023年03月19日 11:29撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 11:29
安達太良山を振り返る
鉄山の山頂
火山観測器らしい
2023年03月19日 11:39撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 11:39
鉄山の山頂
火山観測器らしい
鉄山
山名標がよく吹き飛ばされないものだ
2023年03月19日 11:40撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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鉄山
山名標がよく吹き飛ばされないものだ
鉄山の避難小屋へ
2023年03月19日 11:45撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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鉄山の避難小屋へ
避難小屋より火口縁を望んで
2023年03月19日 11:52撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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避難小屋より火口縁を望んで
箕輪山へ
2023年03月19日 12:00撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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箕輪山へ
箕輪山山頂
2023年03月19日 12:27撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 12:27
箕輪山山頂
北に吾妻連峰を俯瞰
2023年03月19日 12:27撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 12:27
北に吾妻連峰を俯瞰
北西の銀嶺は飯豊連峰
2023年03月19日 12:28撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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北西の銀嶺は飯豊連峰
西に磐梯山
2023年03月19日 12:29撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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西に磐梯山
再び稜線を戻る
2023年03月19日 12:29撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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再び稜線を戻る
鉄山の避難小屋に
2023年03月19日 12:54撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
3/19 12:54
鉄山の避難小屋に
鉄山より再び稜線を戻る
手前のピークが矢筈森
2023年03月19日 13:22撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 13:22
鉄山より再び稜線を戻る
手前のピークが矢筈森
鞍部からは眼下にくろがね小屋
2023年03月19日 13:35撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 13:35
鞍部からは眼下にくろがね小屋
矢筈森は相変わらずこの有様
2023年03月19日 13:35撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 13:35
矢筈森は相変わらずこの有様
このまま谷を下降したいところだが
「有毒ガス発生のため・・・」
2023年03月19日 13:36撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
3/19 13:36
このまま谷を下降したいところだが
「有毒ガス発生のため・・・」
矢筈森から峰の辻に下降
2023年03月19日 13:45撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 13:45
矢筈森から峰の辻に下降
峰の辻より安達太良山山頂(左)をみあげて
2023年03月19日 13:49撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 13:49
峰の辻より安達太良山山頂(左)をみあげて
くろがね小屋へ
2023年03月19日 14:08撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 14:08
くろがね小屋へ
くろがね小屋を振り返る
2023年03月19日 14:14撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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くろがね小屋を振り返る
下山後
岳温泉のバス停のとなりの店のテラスにて
スパークリングの日本酒「人気一」
2023年03月19日 15:25撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 15:25
下山後
岳温泉のバス停のとなりの店のテラスにて
スパークリングの日本酒「人気一」
二本松の駅より
安達太良連山と「ほんとの空」をみあげて
2023年03月19日 16:02撮影 by  E-PL8 , OLYMPUS CORPORATION
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3/19 16:02
二本松の駅より
安達太良連山と「ほんとの空」をみあげて
撮影機器:

装備

個人装備
・軽アイゼン チェーンスパイクを持参したがいずれも使用せず

感想

安達太良山には忘れ難き思い出がある。冬型の気圧配置が緩んで好天が期待される日だった。山麓は晴天だったが、安達太良山の山頂部のみに笠雲がかかっている。薬師岳までは順調に登ることが出来たが、いよいよ山頂が近づき雲の中に入ると完全にホワイトアウトの状態となる。強烈な風と風に舞う雪の粉にサングラスでは対応が難しい。そして新雪の吹き溜まりに入ると膝上までラッセルとなる。山頂までわずか数百メートルの地点でであったが苦渋の撤退をしたのだった。

その日はくろがね小屋に泊まる予約をしていたので、安達太良スキー場で撤退の報告とキャンセルの連絡を入れる。電話を切った瞬間、目の前にいる男性が「くろがね小屋の小屋番のものです。それはさぞかしお困りでしょう。宜しければ山麓までお送りします。」とご親切なお申し出を頂いたのだった。男性と別れ際に「いつか安達太良山に捲土重来し、くろがね小屋に泊まりに行きます」と約束してお別れしたのだったが、コロナ禍で東京への出張の機会もないままにこの3年間が瞬く間に過ぎてしまった。気がつくとくろがね小屋は今季3月いっぱいで営業を終了し、長い立替期間に入ると云う。コロナ禍により中止になった出張が3年越しで再び復活したのをいいことに、出張のついでに安達太良山に再挑戦することにした。

当初は出張の前日の金曜日の夜に泊まることを考えていたのだが、金曜日から土曜日にかけて低気圧が日本の南岸を通過する影響で全国的に天気が荒れ模様だ。福島のあたりでは土曜日は日中の最高気温が2度から3度と真冬並みの予報だ。そこで休みを月曜日に変更して日曜日に安達太良山に向かうことにした。

迂闊であったのは、日本百名山の中でも人気度は指折りの安達太良山にあるくろがね小屋の人気を甘くみていたことである。小屋の予約を入れようとしたら、すでに3月末日まですべて予約で
埋まっていた。なにしろ温泉つき山小屋であるにもかかわらず、冬季は一泊七千円で泊まれることからしても今どき、果たしてこんな山小屋がどこにあろうかと云うものだ。だからといって山行を諦めることはない。桜の季節ならではの京都の菓子をリュックに入れてくろがね小屋を訪ねることにする。

日曜日の早朝に始発のやまびこ号に乗るために東京駅に向かう。驚いたことに朝の6時前だというのに東京駅は平時と変わらぬくらいの大勢の人で混雑している。ホームにはスノーボードを背中に背負った若者達の姿を多く見かけるがその多くはプラットフォームの反対側から出発する上越新幹線に乗り込んでいくようだ。

東北新幹線が関東平野を北上すると雲のない蒼空が広がっている。大宮に近づくと早くも車窓の左手にひときわ白い独立峰が見える。赤城山だ。右手にはひときわ高い冠雪した山が見える。新幹線が北上するにつれ、それが那須連山であることに気がつく。しばらく前のヤマレコの記録ではほとんど雪がないようだったが、雪を纏う主峰の茶臼岳の山容はなんとも壮麗だ。

いよいよ郡山が近くづくと、山麓のあたりまで白くなった安達太良山の姿が目に入る。郡山の西の山には雲がかかっているが安達太良山の周辺には全く雲がない。

二本松の駅からは平日であれば、この東北本線の列車に接続して登山口のある奥岳温泉までバスがあるのだが、この日は生憎、休日であり、バスの運行がないのでタクシーを使うほかない。タクシーの運転手はいかにも気の弱そうな若い男性であったが、昨日は平地でも雪が降ったとのことで岳温泉から上に上がれるかしきりと心配しておられる。

岳温泉から上には周囲の樹々は着雪した雪でまるで花が咲いたかのようであるが、さいわい道路にはほとんど雪はなかった。登山口に到着すると車が何十台も停められている。スキー場は今季の営業は先週に終了したばかりであるが、イベントを行なっているようで、そのための客も少なからずいるようだ。

前回に安達太良山を訪れた時はスキー場は営業していたので、スキー場脇の登山道を登ることになったのだが、この日はゲレンデを登ることができる。ゲレンデには数組の先行者が点々と続いている。

薬師岳からのゲレンデとの合流部に至ると、ゲレンデを登って薬師岳を目指しておられる方もおられる。先行するカップルの女性の方が「ここは右左どちらなのかしらねぇ〜」と仰るので「通常のルートは右の樹林帯の中を登る筈です」とお答え申し上げる。「この上の五葉松平の展望がなかなかいいんですけど、ゲレンデを登ってしまうとその展望が楽しめなくなってしまうんじゃないかな」。一度しか来たことがないにもかかわらず、女性にご説明申し上げる。

ゲレンデを離れて樹林帯の中に入るとすぐにも雪の花が咲いた低木のトンネルの中を進むことになる。わずかに急登を登るとすぐにも低木の樹林帯を抜け出し、松が疎に生える緩斜面に出る。五葉松平だ。前日の雪のおかげで着雪した樹々が美しい。右手には安達太良山の山頂部、左手にはゲレンデの下に二本松市の平地を見下ろす。そしてすぐ目の前には薬師岳が存在感を示している。

先行する女性の登山者から「あら!アイゼンをつけていないのね」と驚かれる。リュックの中には軽アイゼンとチェーンスパイクの二種類を携行してはいるが、アイゼンは必要と思うまでは装着しないことにしている。ちなみに安達太良山の山頂まで数多くの登山者を追い抜くことになったが、皆一様に12本爪のアイゼンを装着しておられる。

薬師岳の山頂部では数組の登山者が休憩しておられる。「この上の空がほんとの空です」と記された有名な標柱の前では若者達のパーティーが代わる代わる写真を撮っていた。ヤマレコでも「ほうとの空」をタイトルに冠したレコをよく見かける。この日は「ほんとの空」と呼ぶのに相応しい雲ひとつない蒼空が広がっている。

ところで安達太良山は昔は「乳首山」という別名でも呼ばれてきたらしい。山頂の岩場の隆起が遠目には乳首のように見えることに由来するらしい。前回の山行では終始、安達太良山の山頂部を目にすることがなかったのだが、実際に山頂を目にすると、なるほどと納得せざるを得ない・・・というか、乳首のようにしか見えない。
薬師岳から先でしばらくは杉の樹林に入る。で追い越した若者のパーティーは私が追い越した後ろから「今日は12本爪のアイゼンを選んで大正解だったよ」と相方に話しているのが聞こえる。私がアイゼンをつけていないこと認識しての発言だったかどうかわからないが、その可能性は十分にあるだろう。

樹林を抜けると途端に樹々も疎となり、再び好展望が広がるようになる。数組の登山者を追い抜かすと途端にツボ足のトレースとなる。先行者が少なくなったということだろうか。

前回撤退した標高点1519を過ぎると途端に風が強くなる。少し前に先行者が登っているのが見えていたが、先行者のトレースが風雪のせいですでに消えかけているところがある。ここまではトレースを壊してしまうことを懸念してスノーシューを装着することを躊躇っていたが、こうなるといよいよスノーシューの出番だ。

山頂直下、峰の辻の方から20人近くからなる大パーティーがやってくる。ガイドが大声で話をしているのでパーティーが登ってくると狭い山頂が大混雑することになると思うので、先にピークに登りに行く。

「スノーシューで登っている人がいるけど、あれは登りにくいんじゃないかなー」とガイドの大きな声が聞こえる。(それは登ってみないとわからないだろう)と心の中で呟く。実際にうまい具合に山頂まで雪が繋がっており、スノーシューで難なく登ることが出来た。

すぐに後ろからパーティが登ってくるとやはり山頂の手前から大混雑となる。人物はどこにいるかはわからないが、「立ち止まらないで下さ〜い。まだ写真を撮らないで下さーい」とガイドさんの大きな声が聞こえる。すべの方が登り切るまで待ってはいられない。トレースのない新雪の斜面にを降って渋滞の後尾の背後に着地する。こういう場面ではスノーシューは便利だ。

山頂の乳首の部分は南東側に入ると途端に風がない。続々と登って来られる登山者は山頂部のパーティーが降りてくるのを待っているようだ。

山頂からは南に形の良い山とその山との間に見事な雪稜が続いているのが目に入る。明らかにトレースはない。ここを歩くのはかなり爽快だろう。往復したい誘惑に駆られるが、地図を確認すると片道3kmほどはありそうだ。往復に少なくとも2時間は要するだろう。

安達太良山から北に伸びる稜線を辿るという当初の予定コースを進むことにする。安達太良山の地図を見ると否応なく目に飛び込むのは山頂の北西に広がる大きな爆裂火口だ。折角、この山頂に来て、この爆裂火口の火口縁を辿らない手はないだろう。

山頂から尾根を北に向かうと、強風のせいで雪が飛ばされてしまっているのだろう。稜線上にはほとんど雪がない。早々にもスノーシューを脱ぐ羽目になった。今回、スノーシューを敢えて携行してきたのも、この稜線を歩くレコが少なく、トレースも薄いことが予想されただったのだが、これは計算違いだった。所々に吹き溜まりがあり、先行者のツボ足のトレースがあるが、膝まで沈み込んでいるところが多い。

遮るもののない稜線上はやはり相当な風である。たちまちのうちに指先が悴み始めるので、薄手のグローブを厚手のものに交換する。

鉄山とのほぼ中間地点となる稜線上の小さなピークは矢筈森と呼ばれるところのようだ。ピークに立つと早速にも西側に広大な火口原の光景が広がった。稜線の北側には黒壁のような鉄山のピークが見える。

鉄山への荒涼とした稜線を進むと風が弱まってきたようだ。風が弱くなるとどこからともなく硫黄の匂いが漂う。いつしか稜線上の雪の上にはトレースが全く見当たらなくなった。
鉄山が近づくと取り付きのあたりは積雪しており、再びスノーシューを履く。それでもサラサラのパウダー・スノーの新雪はかなり沈み込む。見た目は峻険ではあるが、
山頂部の岩峰の西側に出ることが出来る。本来の登山道は山頂の北側まで斜面をトラバースするようだが、岩壁の間の雪がついているところをスノーシューで攀じ登ると、山頂は台地状の平坦な山頂の一角に飛び出す。山頂には観測機があるが、火山活動を観測するためのものらしい。

ここから眺める安達太良山からの稜線の素晴らしいが、なんといっても素晴らしいのは火口縁の壮麗な景色だろう。一面の雪で覆われているが、無雪期の火山特有の色合いも見てみたいものだ。山頂からわずかにお鉢を周回したところに黒い避難小屋が見える。小屋の前では人が見える。山頂の北側はなだらかな隆起の箕輪山が視界に入る。形状からすると溶岩ドームなのだろう。

小屋にたどり着くと三人のパーティーがスキーでの滑降の準備をしておられるところだった。箕輪スキー場から来られたとのことだった。箕輪スキー場の方から登ってくる広々とした雪稜の尾根に点々とスノーシューのトレースがついている。

当初の予定ではここで引き返すつもりでいたが、時間を確認すると11時45分。北側に見える箕輪山が近くに見える。山の西側は低木が広がっているが、東側は広々とした雪原となっている。箕輪山への往復をどうしようかと逡巡したが、「あの山の上まで行くとまた別の景色が広がりますよ」というパーティーの男性の言葉に後押しされ、箕輪山への往復を追加することにした。

実際よりも見た目が近く感じられるというのはなだらかな山容の山にはよくあることだ。登り返しに入ると思ったよりも長く感じられる。とはいえ鉄山の避難小屋から30分少々で山頂に辿り着いたのは上出来だったかもしれない。広々とした山頂の一角に立つと北側に吾妻連峰の展望が大きく広がった。

山頂には一人の男性が寛いでいた。傍らにはスノーシューと大きなボードがある。そういえば、先程から風はかなり緩い。男性は今日は鉄山の避難小屋に泊まるご予定らしい。

安達太良山から来たことを告げると「いまは安達太良山はくろがね小屋が今月いっぱいで休業することもあって大賑わいでしょう。」と仰る。鉄山のあたりからはトレースもなく、静かな山行を楽しむことが出来たことをお話しすると「安達太良山だけで降りてしまうとは何とも勿体無い」とのこと。仰る通りだと思う。

箕輪山の山頂からは南に伸びる尾根の西側に低木の樹林の中に切り払いされた夏道が見えたので、この道を辿って下降する。笹平と呼ばれる鞍部からは夏道は不明瞭となるが、自分のトレースがあるので登り返しは楽だ。避難小屋に到着すると、小屋の前が風の影となるので、サンドウィッチでランチをとる。

復路は鉄山の山頂台地の西側をトラバースして、登りの自分のトレースに合流する。矢筈森に向かうと途中の鞍部からは左手の下の方にくろがね小屋が見える。雪の斜面を下降するのは気持ち良さそうではあるが、小さな案内板があり、谷を下降するコースは「有毒ガスのためにルート廃止」と記されている。矢筈森を越えたところで峰の辻へ下降する。

このルートは既に多くの人が通ったようで、しっかりと踏み固められたトレースとなっている。峰の辻で左折して、雪の斜面をトラバース気味に下降してくろがね小屋に向かう。正面には鉄山から東に伸びる荒々しい岩壁が迫力ある様相を見せている。

くろがね小屋にたどり着くと、小屋の中は大勢の人で賑わっており、多くがパーティーのようだった。単独行者は居場所を見つけるのが難しいかもしれない。だるま型の古い灯油スペースが小屋の中を暖めていた。件の男性は今日は休みとのことで、この日は休みでおられなかったので、小屋の方に京都から持参した菓子を言伝て、小屋を後にする。

くろがね小屋からは再び樹林帯となり、しばらくはほぼ水平のトラバース道が続く。勢至平と呼ばれる緩斜面の樹林の中を下ると、最後は落葉松の人工林となる。雪が緩いのでグリセードで滑りながら下降することが出来るが、やがて足元の雪は融けて、泥濘が目立つようになる。

再びスキー場に降りると、ゲレンデを走り回る自転車が目立つ。周囲には屋台も立ち並び、多くの人で賑わっている。スキー場の下の登山口に到着したのは丁度、15時だった。この日は予め15時に登山口にタクシーを予約しておいたのだったが、タクシーの女性運転手はすぐに私が予約の客だと認識したようだが「凄い!時間ピッタリに降りてくるのは難しいんじゃないですか?」と仰る。

タクシーで下ると朝に見られた樹々の雪はすっかりなくなっており、道路の雪も消えていた。岳温泉でタクシーを下車するとバス停の隣の店でスパークリングの日本酒を入手し、店の前のテーブルでバスの出発までの時間に一杯、傾ける。人気一という瓶内発酵の純米吟醸酒であり、人気酒造という二本松の酒蔵のものだった。

二本松の駅から安達太良山を見上げると安達太良山、鉄山、箕輪山と縦走してきた稜線が綺麗に見える。相変わらず青空がその上に広がっているのだった。

「ほんとの空」は彫刻家高村光太郎が書いた「智恵子抄」の中の「あどけない話」に由来することを下山後に知る。この詩に込められた智恵子の深い郷愁と光太郎の共感は心を打つ。

智恵子は東京には空が無いといふ。
ほんとの空がみたいといふ。
私は驚いて空を見る。
(中略)
阿多多羅山の山の上に
毎日でてゐる青い空が
智恵子のほんとの空だという。
あどけない空の話である。

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コメント

山猫さん、こんにちは
晴天の安達太良山、遥か遠くまで見渡せて素晴らしい山行ですね♪
私はこの冬、歩きたい山のひとつでしたが天候に恵まれず断念しました涙
安達太良山の有名な標柱「ほんとの空。。」にはそんな由来があったのですね。
ますます私も「ほんとの空」に会いに行きたくなりました笑
2023/3/21 13:14
ゆっきー♪さん コメント有難うございます。
確かにゆっきーさん達の東北遠征の中に安達太良山が含まれていませんでしたね。
安達太良山は超人気の山らしいですが、山頂一帯は強風地帯でもあるらしく、タイミングが難しいですね。前回、断念した時も周辺一帯は晴れていたのでした。でも機を改めることにしたからこそ、今回の連山の縦走に繋がったと思うので、それはそれで良かったかな・・・と思っています。
でも、ここはまた違う季節にも訪れたいと思う素晴らしいところでした。
2023/3/21 14:31
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