錦繍の那須連山を縦走


- GPS
- 04:03
- 距離
- 12.6km
- 登り
- 798m
- 下り
- 1,380m
コースタイム
- 山行
- 3:33
- 休憩
- 1:01
- 合計
- 4:34
過去天気図(気象庁) | 2023年10月の天気図 |
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アクセス |
写真
感想
この週末は横浜に出張の予定があるので、その前日に休みをとり、登るのに都合のいい山はないかと探すが、中央線沿線の山は夜行バスで到着する時間から山に向かうバスが出発する時間までが長いことが問題だ。東に向かう夜行バスには宇都宮行きのものがあることに気が付く。このバスに乗ると宇都宮から黒磯に移動して、那須に向かうバスに順調に乗り継ぐことがことが出来るようだ。
那須岳には高校時代にワンゲル部の友人と二人で登った想い出がある。まさに十月の半ば、紅葉の真っ盛りの季節で、その素晴らしさだけが記憶に残っているのだが、いつか紅葉の季節に再訪してみたいものだった。
京都から宇都宮行きのバスは平日なのでさほど混んではいないだろうと高を括っていたが、豈はからんや、かなりの人が乗っているようだった。バスは宇都宮駅には6時40分過ぎ、予定よりも少し早くに到着する。宇都宮から黒磯までの列車は通勤・通学の人たちでかなり混んでいた。
黒磯から那須に向かうバスも平日であるにも関わらず満席状態であった。もちろん、そのほとんどは那須に向かうハイカーである。バスが那須岳に近づくと山腹には見事な錦繍が広がっている。バスが終点のロープウェイ山麓駅に到着するとすぐにもロープウェイが出発する。
那須岳という山はなく、茶臼岳、朝日岳、三本槍岳という三つの総称であることをロープウェイの乗務員が紹介される。この日は雷注意報が出ていうらしく、午後には雷の危険性があるとのことも。ロープウェイが山頂駅近くになると、こんな小話も披露される。ある政治家がこのロープウェイに乗った際に公金で乗車券を購入したらしい。後にそれがバレて、市民団体に「それは明らかいに私用ではないですか?」と詰め寄られることになる。政治家が答えて曰く「いいえ、立派な公用でした」とのこと。
ロープウェイを降りると早速にも茶臼岳の山頂を目指す。茶臼岳はドーム状の岩山で一切、樹木はない。登山道にはすでに多くのハイカーが登っている。スーツ姿に革靴で登っている人もおられ、この茶臼岳への往復の人が多いようだ。
右手には峻険な朝日岳が目に入る。朝日岳の西側は荒々しい岩肌のみであるが、その東側から山腹にかけては笹原の緑の草原の中に点在する色づいた樹木が美しいコントラストを見せている。
茶臼岳の山頂に到着すると急に風が冷たく感じられる。太陽はすでに雲の中に隠れ、空には急速に雲が広がっている。確かに午後には天気が不安定となる可能性があるのだろう。
早速にも朝日岳に向かって縦走を始める。鞍部から朝日岳に向かい、鞍部の避難小屋を過ぎると急に人影が少なくなるように思われる。剣ヶ峰の東側をトラバースして小さなコルを通過すると、登山道は西側の険阻な岩壁をトラバースしながら朝日の肩と呼ばれる山頂の北側のコルに向かう。
前方からパーティーがやってくる。対向する登山者とすれ違うこの出来る場所がほとんどないので、少し広い場所で待機していると、先頭を歩くリーダー格の男性が私に向かって「先日、朝日岳で四人が遭難されたのはこのあたりなんですよね」と説明される。
先日の寒波の際に朝日岳で低体温症で亡くなったということは家内から聞いてはいたが、朝日岳とは白馬岳の北にある北アルプスの山のことだと思っていた。まさかこの那須の朝日岳とは思っていなかった。先ほどの避難小屋までの距離もさほど遠くなく、決して難易度も高くない山ではあるが、いくら悪天候だからとはいえ果たしてこんな場所で四人も亡くなるような遭難事故が発生することがなんとも意外にも思われた。
どうやらパーティーは登山ツアーらしく、ツアー客23人にガイドが四人、総勢27名のようだった。ほとんどが仕事を引退された世代の方達のように思われた。
朝日の肩から朝日岳まではなだらかな尾根を辿って一投足だ。南には日光連山、南東の方角にひときわ目立つ三角錐の山は尾瀬の燧ヶ岳らしい。そこから右手に広がる山々は山座の同定が困難であるが、上越地方の山々だ。
三本槍岳にかけてはそれまでの山容と一転して、広々とした尾根が緩やかに波打ち、その上では色づいた灌木がパッチワークを見せている。高い樹木は全く見当たらないのはここが独立峰であり、冬季は日本海側からの強風の通り道となっているからだろう。
きた温泉への分岐を過ぎて、三本槍に向かうと甲子山から東に伸びる稜線のあたり一面の紅葉の染まっているのが見える。阿武隈川の源流域になるようだ。折しもその谷の周辺のみに光があたり、錦繍の斜面を明るく輝かせている。その彼方には安達太良山、吾妻連峰が連なり、その左手にある存在感のある三角錐の山は会津磐梯山だ。手前には猪苗代湖が見える。
三本槍の平坦で広い山頂広場から360度、見渡す限りの好展望が広がっている。いつしか日光の山々との間には雲海が広がっている。展望を満喫していると後から到着されたパーティーもその展望にしきりと歓声をあげておられる。前回にここを訪れられた時には何も見えなかったそうだ。確かに地形的に笠雲がかかりやすいのだろう。猪苗代湖の手前で風力発電のための風車が立ち並ぶ山が布引山地と呼ばれるところであることを教えて下さる。そういえば三重県でも同名の山地があるがここも風車が立ち並ぶところであった。
山頂から引き返し先ほどの分岐まで戻ると下山は中ノ大倉尾根と呼ばれる尾根に入る。しばらくは広々とした尾根に笹原が広がり、散在する灯台躑躅と思われる低木が紅葉を見せてくれる。右手には朝日岳の荒々しい山肌、正面には紅葉の山麓のパノラマを眺めながらの快適な下降が続く。
やがて笹原が終わるといよいよ錦繍の樹林の中へと入ってゆく。樹林に入ると早速にも紅葉の盛りのブナやダケカンバが出迎える。時折、雲の合間から漏れ出る午後の日差しが樹林の中にステンドグラスのような透過光を散らしてくれる。
下るにつれて楓の樹が増えてくると紅色が混じり、紅葉が一層、華やかに感じられる。那須ゴンドラへの分岐を過ぎると、登山道の周辺は五葉躑躅の群生地となっているらしい。ここでも橙色に色づいた五葉躑躅が目を楽しませてくれる。花が咲くシーズンはさぞかし美しい光景が広がることだろう。
ツツジの群生が終わり、登山道が右手の斜面を九十九折りで下降するようになるとまもなく北温泉に到着する。この北温泉はかつて高校時代に縦走した時にも立ち寄り、昔の湯治宿の雰囲気をとどめた趣きに驚いたのだったが、いまも当時の雰囲気のままであった。しかし、驚くことに日帰り入浴は入口を入ったところの券売機でチケットを買うことになるらしい。果たして券売機に意味があるのだろうかと思う。
温泉の宿泊は素泊まり(自炊)のみの営業であり、果たして泊る人がどれほどいるのだろうか・・・と思ったが、入浴の受付をしようとすると若い女性が二泊の宿泊費を払っているところであった。
温泉をあがると、バス停まで少し歩く必要がある。細い坂道を上がって行くとすぐにも広々とした駐車場に出る。滝を眺めるための観瀑台が設けられており、余笹川の流れる錦繍の谷間にかかる駒止めの滝と呼ばれる一条の滝が一幅の絵画のような光景を見せてくれるのだった。
駐車場からは道路を直進すればバス停に到着するのだが、左手の樹林の中に自然探求路がある。再び紅葉の樹林の中を歩くと、すぐにも白戸川のバス停に到着した。後で調べるとこの道は2年前に新たに整備されたばかりらしいが、
黒磯の駅に到着するとすぐにも宇都宮駅の列車が発車する。宇都宮で列車を乗り換え、東京方面に向かうと、雲の彼方で急速に陽が傾いていく。気がついたら美しい夕焼けが車窓に広がっていた。
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