不帰嶮(天狗~唐松岳)縦走



- GPS
- 16:33
- 距離
- 19.5km
- 登り
- 2,302m
- 下り
- 1,829m
コースタイム
- 山行
- 7:22
- 休憩
- 0:44
- 合計
- 8:06
- 山行
- 6:14
- 休憩
- 1:56
- 合計
- 8:10
天候 | 1日目、晴れ時々曇り 2日目、霧のち晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2025年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
写真
感想
昨年唐松岳から見て憧れていた不帰嶮を、どうしても一度歩いてみたく、東京近郊からマイカーのアクセスで、2日間の休みで行けるコースとして計画しました。白馬村に駐車して猿倉登山口までタクシーで移動してからスタートし、帰りはリフトとゴンドラで白馬村に戻るコースです。
現地に朝着でも良かったのですが、そのためにはAM1:00くらいに家を出ることになるので、今回は前日入りして白馬村に前泊しました。55ベースというコンドミニアム形式の宿が、白馬村でほぼ唯一、一泊5千円以下で宿泊可能。ナンバーキー方式でレイトチェックイン可、最近できたばかりで綺麗で、個室で寝具も清潔、前泊に持ってこいです。
車は第三駐車場が無料で停められて、宿までは3分くらいです。そこからタクシーで猿倉荘まで20分くらい、バスもありますが始発が6時で料金2千円、タクシーは予約すれば早朝でも指定の場所に迎えに来てくれて、猿倉荘まで今回4100円だったので2人以上ならタクシーが便利です。
猿倉登山口からは白馬の大雪渓方面に行く人が大半で、鑓温泉方面に行く人は1割くらいの感じです。鑓温泉への登山道は、前半はごく普通の樹林帯の登山道ですが、自然そのままの雑木林は杉と檜が一本もないので、緑の色が鮮やかで雰囲気が良く、北アルプスに来たという序章が味わえます。
鑓温泉までの途中で、一箇所だけ雪渓を横切るようになっており、事前に鑓温泉小屋に聞いたところ「チェンスパは非推奨で軽アイゼン以上が推奨」と言われたのですが、昨日のコンディションではチェンスパで十分でした。私たちの直後の登山者は、夏靴でそのまま歩いて、結構な歩度でスタスタ渡りきっていました。その後ろの登山者は雪渓を上流側に50mくらい巻いて雪のない箇所を渡っていました。
鑓温泉から上は鎖場が少しあり、他の山域なら鎖がないかもくらいの緩く短い岩場です。自分はストック依存性なので、ほぼストックを使って立って歩いて登りましたが、いよいよストックでは無理と判断してストックを畳んでしまったら、それが最後の鎖で、すぐまたストックを出すことに。「ストックしまえ」の注意看板が何回も出てくるのは、中途半端な斜度の岩場なので、私のように無理にストックで頑張って転ぶ人が多いのかもしれないと思いました。頑張っても最後の岩はストックでは無理なので、素直に早めに畳んでしまうのが良かったかもしれません。
岩場鎖場が終わると雰囲気がガラッと変わってお花畑で、メルヘンな感じです。運良くそのタイミングで丁度晴れたので、とても気分良く登ることができました。稜線に上がる最後はガレ場のつづら折れで、すれ違った登山者から「上は気温10°、風速15mで地獄よ」と言われたのですが、私達が登ったときには5m以下くらいに納まっていたので助かりました。
猿倉登山口から稜線まで、累積1700くらい上げる必要があります。自分は一日で1700上げるのは初めてで、この山行はどちらかと言うと翌日がメインなので、意識して歩度を落とし、歩幅も刻み、小休止も多めにして脚と体力を温存するように登りました。比較的登り易い道だったこともあり、なんとか疲れ過ぎずに無事に登ることができました。
二日目は朝から霧と強風。5時出発の予定を6時に遅らせたのですが全く改善の気配なし。霧は視界が20~30メートルくらいはあったので、道が分からなくなるほどではなかったのですが、風は富山県側から常時10~15mくらい吹き上げっぱなしで、身体を右斜めに傾けてやっとバランスが取れる状況。吹き付ける霧で眼鏡が曇って見えないのでやむなく眼鏡を外し、裸眼で歩くしかない状況でした。
天狗の頭付近は、今回は真っ白でしたが、晴天なら気持ち良いであろう広くて緩い縦走路。それが天狗の大下りで前触れもなく一転して急峻な岩場になります。事前情報で把握していたものの、視界がないのであまりの突然の激変に気持ちが追いつかず、かなり怯みました。まるで崖っぷちに追い詰められた気分です。最初は急な岩の狭い立ち込みを左に巻くようにトラバース。ガレ沢の上部を渡る箇所はとくに立ち込みが狭く、岩が濡れていて、風は吹き荒れ、視界不良で、既に怖くてビビリモードです。
そこから降り始める最初の鎖が、このコース全体の中でいちばん難しかったかもしれません。岩の層が逆スラブ気味で、岩質も濡れると滑り易くなるタイプ。足の掛かりが浅く、いつスッポ抜けるか分からない感じ。手のホールド箇所も少なめで指の掛かりも不十分。落ちたら洒落にならないので、安全第一で鎖に頼りきって降りました。鎖に頼ってすら足掛かりが不足して怖く、そこから難度が増していったらどうしようかと不安になりましたが、初っぱなが最大難度で、そこからは徐々に難度が下がる方向だったので良かったです。一連の岩場のあとガレたつづら折れを降り、再度少しの鎖場があって、天狗の大下りの鎖はその2箇所だけでした。
天狗の大下りでは「道迷いに注意すべし」とされているので、いったいどこがその分岐点か気にしながら歩いていたのですが、逆に間違え易い箇所がどこなのかが良く分からなかったです。あとで関連記事を再度読んで、大下りの最初の左巻きでガレ沢を横切った箇所がそれだと思い当たりました。確かにそちらが先に目に入る位置関係なので、「え?これ降りるの?」と自分も一瞬思いましたが、見ただけで絶対に無理、とても下り始めようとは思えない、恐ろしく急でガレ果てた沢です。そもそも尾根筋じゃなく沢筋だし。ごく普通の注意力と20m程度の視界があれば、一見して駄目と分かるので大丈夫です。たぶん、魔が差したとか、その瞬間気が散っていたとか、そういうことなのかなと思いました。しかし、間違えて5歩か10歩踏み入れるだけで命の保証がないレベルのヤバさなので、絶対に間違っちゃイケナイなことは確かです。
不帰キレットから一ニ三峰の登りは、景色がないのが甚だ残念でしたが、登坂自体はとても楽しかったです。天狗から唐松に向かうルートだと、下りの岩場は天狗の大下りだけで、一ニ三峰の岩場鎖場は基本的に全て登りになります。逆ルートの場合は岩場鎖場が全て下りになるので、難度、高度感とも5割り増しくらいだと思いました。こちらからのルートだと、一峰の岩場は丁度良いウォーミングアップといった感じになり、ニ峰北峰が一番の楽しみどころです。ホールドも多くしっかりしており、足も掛かるので、岩好きの方は鎖に頼らずに楽しく登れます。
有名な空中ハシゴを渡った直後の短い登りだけ、丁度掴みたくなる位置に抜けそうな岩がいくつかあり、不用意に掴んで力を掛けると危ないかもしれません。鎖に頼らない派の方は要注意です。ニ峰南峰は北峰よりも簡単と言われていて、岩場の傾斜は緩いのですが、鎖を掴まない前提で言うと、ホールドの位置関係や足の掛かり具合などか難しく、むしろこちらの方が難度が高いかもしれません。今回この付近はそれほど酷く濡れてなかったので鎖なしで登れましたが、靴のグリップが不十分と感じたら、無理せずあらかじめ鎖を掴んだ方が良いです。
三峰は遠くから見る勇ましい山容とは裏腹に、登山道は三連ピークを富山県側に巻いているらしく、岩場はほぼなくてガレた道が殆どです。終盤にちょっとした岩もありますが、それも含めて普通に立って歩けました。ピークに向かうと思しき踏み跡が左方向にありましたが、視界がなかったのでスルーしました。晴れていたらピークハントしても楽しいかと思います。ニ峰南峰から三峰の通過は、右に左に目まぐるしく巻きながら進むので、視界がないとどっちに向かっているのかも良く分かりません。白い中をただただ歩き続け、気がつくと唐松岳のピークに達していました。なにも見えないことが、さすがに残念な気持ちになりました。
ところが、唐松で小休止のあと、八方方面に下山の途中で見上げると、なんと不帰の嶮がピーカンで全部見えてるじやないですか‥‥唐松岳への登山道は北アルプスらしい景色が素晴らしいと大人気ですが、その景色とは、まさに天狗から不帰キレットを経て唐松に続く稜線と、その稜線から深い谷に落ちる断崖、そこにある雪渓やガレた沢の勇ましくも美しい姿です。とくに不帰三峰の鋸歯のような稜線と、そこから谷に深く落ちる三組の切り立った尾根筋と沢筋のギザギザは、ゴジラが爪で引っ掻いたような荒々しさで、見惚れるほどです。
今朝、出発をあと2時間遅らせていればと思うと悔しいですが、自分の歩いた稜線の全容を一望できただけでもラッキーと思うことにしました。また機会があれば、好天を狙って再訪したいです。好天で歩いたら、どれほど素晴らしいだろうと想像するだけでワクワクするような素晴らしいコースでした。
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