記録ID: 8860443
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無雪期ピークハント/縦走
奥多摩・高尾
多摩川流域分水界の同定と周回
2025年10月25日(土) [日帰り]

体力度
10
2〜3泊以上が適当
- GPS
- --:--
- 距離
- ---km
- 登り
- ---m
- 下り
- ---m
| 過去天気図(気象庁) | 2025年10月の天気図 |
|---|---|
| アクセス | |
| コース状況/ 危険箇所等 |
https://www.funahashi.info/record/2025/tamagawa_watershed.html 多摩川の流域外縁の見えない境界線=分水界を踏破しようと思い立ち、いろいろな地形図を駆使しながら実地踏査と組み合わせて分水界を同定、数十年かけて周回・可視化した。 数年前から、高山だけではなく身近な山にもよく行くようになった。高尾山付近から始めて、奥多摩の山々にも最近は良く通っている。 これまでに歩いたり走ったりしたルートを地図上にトレースしてみると、多摩川流域の分水界をかなり辿っていることに気づいた。自分は多摩川の流域に住んでいるので、これまでに歩いた範囲を広げていって、分水界を徒歩で周回するルートをつなげたくなった。更には、河口からの完全周回ルートの線を一周つなげたい。 (分水界は、降った雨が異なる河川に流れ込む境界線、つまり異なる河川の流域の境界線のこと。分水嶺と呼ぶことが多いが、今回辿った場所は山域ではないところが多いので、ここでは分水界という言葉を使う) 周回の進め方については、単純に分水界を歩いてつなげていくのではなく、段階的にいくつかの周回ルートを構成することにした。各段階は、たとえばある地点から上流の流域の分水界を周るというルート。そして、1段階達成する度にその地点を下流にずらしていって、5段階に分けて完全周回を達成した。この場合、小分水界(後述)が加わる分距離は長くなるが、各段階で毎回達成感が得られる。 他の水系から人工的に多摩川水系となった支流については、改変前の自然地形を推測し、多摩川水系とせずに分水界ルートを引いた。分流についても同様に、水系に含めないことにした。 例:狭山湖や多摩湖、玉川上水、平瀬川、二ヶ領用水、六郷用水、海老取川、など また、当然ながら地下の水系は考慮していない。純粋に地表の地形から分水界の同定を楽しんだ。 分水界に近づくためにやぶ漕ぎを頑張ったところは一部あるものの、基本的には道があるところを歩いたので、分水界を正確に辿れてはいない。市街地では道路を歩くしかないので、道に沿ってジグザグに歩いている。また、巻き路を通ってしまい山頂を通過しなかったところ、何らかの施設(浄水場やゴルフ場など)を迂回した場合や、歩くまたは走るのに適さない大きな道路では代わりに近くの道を選択したなど、分水界をかなり外れたところもあるが、よしとした。 GPSのログをつないで記録を残し、以下の地図上に表示した。 ハンディーGPS機を初めて手に入れたのは1998年ごろだったが、当時の機種は緯度経度を数字で表示するのみで、まだログを取れなかった。2003年に買い替えた機種以降はログを取って残せるようになったが、それ以前に歩いたルートは、マニュアルで描いた。今はスマホにGPS機能が搭載されており、今回のルートの半分以上は、スマホでログを取った。また、ランニングの場合はスマートウォッチ(ハンディーGPSと同じメーカーで、スマホのGPSより精度は高い)のGPSログを利用した。 表示したGPSログは、分水界に関係ない山行のものは消したが、分水界ルートへのアプローチや帰路で歩いたログは、関連山行ルートとして残した。 1段階目 [奥多摩上流流域の周回] まず最初に達成したのが、奥多摩で日原川を分けた地点から上流の両岸を、多摩川の本流も支流も渡らずにつなぐルート。 これは狙って達成したというよりも、気づいたら一部を残してほぼできていた。むしろ、これに気づいたのがきっかけで多摩川の分水界を周回しようと思い立った。 具体的には、奥多摩 - 石尾根 - 雲取山 - 笠取山 - 柳沢峠 - 大菩薩 - 牛ノ寝通り - 鶴峠 - 三頭山 - 鋸山 - 奥多摩、というルート。 同じ水系の支流を分ける尾根を『小分水界』と定義すれば、奥多摩から雲取山までの石尾根と、三頭山から奥多摩駅までの奥多摩主脈は、小分水界ということになる。どちらも奥多摩登山のメインルートだ。雲取山からぐるっと三頭山までが、他の水系との分水界。大菩薩峠付近以外の分水界のほとんどは静かで、小分水界のほうがよく歩かれているのは面白い。 初めて歩いた部分は、40年前の大菩薩嶺。もし連続で歩けば5〜6日間程度で周れそうだが、分割して歩いたので、数えてみると延べ10日間を要していた。 2段階目 [青梅上流流域の周回] 多摩川が山地から出る地点で、武蔵野台地の扇頂にあたる、青梅から上流部分の分水界周回を2段階目とした。 1段階目を終えた時点で残っていたのは、左岸側が雲取山から長沢背稜を通って岩茸石山までのルート、右岸側は三室山から青梅への短い区間。他の区間は、たまたま既に歩いていた。 長沢背稜は山深くておいそれとは行きづらい。行程を色々と工夫して、岩茸石山から川苔山へのコース、奥多摩湖から長沢背稜を通って川苔山へのコースと、2回の山行、合計3日間で片づけることができた。線をつなぐために計画したコースだったが、長沢背稜は静かで印象深い、とても良い山行だった。後で知ったが、かつて天皇陛下も歩かれたそうだ。なかなか渋いコース選定だ。 三室山から青梅への間には、登山道の記載がない区間があり心配したが、踏み跡はあり問題なく歩けた。多摩川から青梅駅へは、千ヶ瀬面や天ヶ瀬面など河成段丘が短い幅で重なっているので、登るのはきついが、段丘と崖線が実感できて興味深い。 3段階目 [山域分水界] 分水界が稜線を通っていて、地形図を見ればどこが分水界なのかが明瞭なルート。言い換えると、全体のうち分水[嶺]と呼ぶことができる範囲を、第3段階として設定。青梅丘陵から反時計回りにぐるっと回って南高尾までの山域。1点からの周回ではなく分水界のみのルートなので、小分水界は歩かない。 実は、2段階目より3段階目の方を先に達成していた。 4段階目 [国分寺崖線末端が多摩川に接するところ、丸子橋両岸から小分水界と分水界を周回] 分水界の同定を楽しむ、このレポートのメインの部分。 山域における分水界は稜線を通っているので、地図上で分水界は容易に判明するが、青梅丘陵以東の武蔵野台地と、南高尾より東側の多摩丘陵および平野部分は、分水界の同定が大変だった。 そこで活用したのが、下記サイト。 - 日本全国河川マップ - 陰影起伏図 - 自分で作る色別標高図 - 流域地図 - 今昔マップ 『日本全国河川マップ』で分水界のあたりを付け、『自分で作る色別標高図』で試行錯誤して、分水界ルートを決めた。『流域地図』も参考にしたが、最終的には『自分で作る色別標高図』を0.5m単位で微調整しながら詳細ルートを決定した。現地を歩く過程で、実際の微地形を見て修正することもあった。 左岸側の青梅丘陵から東は、多摩川の扇状地。古多摩川は現在の荒川水系方向へ流れていたこともあるそうで、その扇状地上ではどこが分水界なのかわかりずらい。東に進むと分水界は狭山丘陵にいったん上るが、丘陵のほとんどは荒川水系で、途中で戻るように下りると、あとはずっと平らな住宅地になる。ここに住んでいる人たちは、自分が分水界上に住んでいるとは知らないんだろうなあなんて思いながら歩いた。良い立地だねと教えてあげたい。 左岸側では玉川上水やその分水の品川用水跡の一部に沿って歩くことが多かった。広い地域を潤すために、上水はなるべく尾根上を通されている。先人の知恵と技術に感心する。途中、いくつかの浄水場や給水所に道を阻まれるが、これはやむを得ない。尾根の分岐点(分水界と小分水界の接点)に浄水場が作られているのには納得。 狭山丘陵を下って武蔵野台地に入ると、しばらくは地形の起伏が少ない平坦な道が続いた。しかし終盤、等々力駅付近で突然大きく下り、広い谷を横切って再び上る地点が現れる。このように、分水界が谷を横切るのは一見不自然に思えるが、ここは「谷中(こくちゅう)分水界」と呼ばれる特殊な地形になっている。 この地形ができた背景には、谷沢川の存在がある。多摩川の支流である谷沢川は、強い浸食力によって国分寺崖線を削りながら、等々力渓谷の谷頭を上流へと延ばしていった。やがて、かつて武蔵野台地の上をゆったりと広く流れていた九品仏川の旧河道にまで達し、その流れを自らの流域へと引き込んだ。「河川争奪」と呼ばれる現象である。 こうして本来は九品仏川が流れていた谷の上流を谷沢川が流れるようになり、旧河道の一部が風隙(ふうげき)として残された。この風隙が現在の分水界となっている。 なお、古代に人工的に開削されて流路が変えられたという説もあるが、ここでは自然地形としての河川争奪による形成と解釈した。 右岸側は対照的に、アップダウンが多い。基本的に扇状地上のため平らだった左岸側とは対照的。多摩丘陵部分の分水界の一部は、今までにランニングしたコースと偶然重なっていたので、それらをつないで歩いた。丘陵は開発がかなり進んでいるが、分水界だけは自然が残されて山道になっているところが多かったのは好ましい。 左岸側と同様、浄水場や給水場が何度もあった。尾根上のゴルフ場に3度も阻まれ、かなり大きく迂回することになったのには閉口。 平瀬川を多摩川水系と考えるか、鶴見川水系と考えるのかによって、その源流から右の尾根に行くのか左の尾根に行のくか、分水界は大きく違ってしまう。 現在の平瀬川(新平瀬川)は、洪水対策のためトンネルで人工的に山をくぐらせて多摩川にそそいでいるのだが、これは自然地形としての多摩川の支流とは言えない。旧平瀬川は溝の口へと東に流れ、二ヶ領用水に合流していたようだ。というより、二ヶ領用水が旧平瀬川を利用して作られた。では、二ヶ領用水開削前の平瀬川は、どちらに流れていたのだろう。少し下流で二ヶ領用水は北側の微高地に上っていて、自然河川としては不自然。元の平瀬川は、南の鶴見川水系へ流れていたと推定した。したがって、多摩川水系には平瀬川を含めず、その北側を分水界とした。 分水界上にある向ケ丘遊園跡地の『ばら苑』は、入場無料だが、春秋のごく限られた期間しか開園していない。しかも、周辺開発工事のため今秋限りで当分閉園するらしく、今を逃すとトレースできなくなる。と言っても、どうせ通り抜けできないし奥まで行くことすらできないのだから、こだわることはなかったのだけど開園まで2ヶ月待って入場した。 多摩丘陵の複雑な尾根上をうねって東進していた分水界は、下末吉台地をちょっと経て、久地円筒分水付近で平地に下りる。そこから下流の二ヶ領用水沿いの小道はランニングコースとして何度も走っていて、用水は分水界の尾根上を通るものと思い込んでいたため、この区間は完了していると思っていた。 実際には上記の通り、用水は旧平瀬川の流路を利用したため、尾根上にはない。玉川上水よりも50年以上前の戦乱の時代に着工された二ヶ領用水が、尾根上を開削せずに旧平瀬川を利用したのは、当時の技術力や工事能力のせいか、それとも北側の尾根上を並走する府中街道への配慮か。現在の二ヶ領用水は旧二ヶ領用水(川崎堀)より尾根に近いところに移設されているが、府中街道のほうが更に尾根に近い。 そこで、旧道を調べて走りなおしたのだが、念のため『自分で作る色別標高図』等でじっくり調べてみると、分水界の微高地(多摩川の自然堤防?)を外れている所があることが分かったので、再々度走りなおした。 5段階目 [河口からの完全周回] 丸子橋まで繋がれば、河口まで繋げなくてはならない。 分水界は、下流に行くほど幅が狭まり、川と分水界が近い。つまり、川と分水界を結ぶ小分水界は短くなる。下流部の沖積平野では、自然堤防(微高地)によって、すぐ近くの隣の川であっても合流しにくいため、別水系になりがちなためだ。この微高地が分水界になる。 丸子橋両岸の場合の小分水界は、左岸は丸子橋から田園調布の玉川浄水場まで、右岸は等々力緑地付近の二ヶ領用水まで。それぞれわずか2km程度しかない。第4段階の丸子橋周回は、完全周回につなげるのに無駄が少なかったということになる。 左岸側の分水界は、田園調布から南東進し、武蔵野台地(古多摩川の沖積平野)末端の久が原台から平地(現多摩川の沖積平野)に降り、蒲田へと向かう。このルートを走れば、左岸側は完了だ。 羽田空港まではランニングで過去に数回行ったことがあって、そのコースの一部が蒲田から下流分水界と重なっていた。空港内ではかなり奥の方まで徒歩で行くことができて、A滑走路やB滑走路より更に先まで走っていけたが、海側にあるC滑走路の先までは当然行けない。 昔の自然地形には無かった埋め立て地なので、これで良しとしよう。多摩川の0kmポストはもちろん確認しに行ったが、実際、かなり手前にあった。 右岸側、武蔵小杉から下流も、第4段階の続きで多摩川自然堤防の微高地をたどったが、旧府中街道を走ることが多かった。川崎駅付近から下流は、堤防を走った。 浮島の先端は自動車専用道なので、左岸側同様先端まで行くことはできないが、なるべく先端近くまで行った。こちらも、河口の標識は浮島より手前にあった。 多摩川分水界上に一等三角点は3か所あった。いずれも左岸側の都内で、雲取山(2017.13m)の他は、意外と低いところにある。一つは狭山丘陵の高根(194.03m)、もう一つは玉川浄水場内の上沼部(40.8m)。浄水場内へは立ち入れないが、柵越しに見ることはできた。 多摩川流域の分水界を5段階に分けて徒歩で周回した。山岳部では既存の登山道を活用し、台地・丘陵・平野部では地形図・標高データ・水系図を参照しながら分水界を推定し、可能な範囲でルートを繋いだ。分水界の定義や水系の判定には地形的・歴史的な要素が絡み、特に平瀬川の水系帰属について判断に迷う場面もあったが、自然地形に基づく分水界(自然分水界)を優先してルートを設定した。浄水場やゴルフ場などの私有地、都市部の幹線道路などでは迂回を余儀なくされたが、全体として流域の境界を意識した歩行ができたと思う。 分水界を辿る旅は、地図上で決めた線を実際に歩いて確かめる、地形との対話だった。地形を読むことは、風景の裏にある時間を感じることでもある。歩いた分だけ、土地の記憶に触れられた気がした。 https://www.funahashi.info/record/2025/tamagawa_watershed.html |
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