台湾・玉山主峰〜3度目の正直の"ニイタカヤマノボレ”〜
Junjapa
crementia
体力度について
- GPS
- 12:29
- 距離
- 15.0km
- 登り
- 2,043m
- 下り
- 1,494m
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標高グラフを拡大コースタイム
- 山行
- 5:31
- 休憩
- 1:16
- 合計
- 6:47
| 天候 | 10/30 晴れ 10/31 曇り （ピーク）ガス&強風 （下山）晴れ |
|---|---|
| 過去天気図（気象庁） | 2025年10月の天気図 |
| アクセス |
利用交通機関：
電車 バス
飛行機
・10/29（水）東伏見＝[車]＝吉祥寺++新宿++品川++羽田第三ターミナル〜〜[空路]〜〜台湾・松山空港＝[チャーターバス]＝東埔温泉（泊（＊1）） ・10/30（木）東埔温泉＝[チャーターバス]＝上東埔駐車場ー[徒歩5分]ー排雲登山サービスセンター＝[楠溪林道・専用シャトルバス]＝塔塔加鞍部登山口 （＊1）東埔帝綸温泉渡假飯店 東甫温泉街にある大きなホテル。温泉あり。少しぬるい。 ■復路 ・10/31 塔塔加鞍部登山口＝[楠溪林道・専用シャトルバス]＝上東埔駐車場＝[チャーターバス]＝台北市内（泊（＊2）） ・11/01 休養日（泊＊2） ・11/02 台北市内ホテルー[徒歩]ー捷運大橋頭站(ターチャオトウ駅）++三重站（サンチョン駅）＋＋機場第二航厦站 （桃園（タオユエン）空港第二ターミナル駅）〜〜[空路]〜〜成田空港++日暮里++高田馬場++東伏見 （＊2）HU（互舎）HOUSE 台北・保安街と重慶北路二段の角にあるシンプルなホテル。豪華さはないが部屋は清潔で日本人も多い。歯ブラシなどは有料。通りを隔てて向かい側には林華泰や林茂森などのお茶屋さんもある。寧夏夜市なども至近で便利。 |
| コース状況／ 危険箇所等 |
＜�．魁璽港竿漫� ●基本、問題がない。 ●日本と比べて南にあるため森林限界は3600〜3700mと高く、また暖かいため雪が付きにくい。 ＜��塔塔加鞍部〜排雲山荘＞ ●よく整備されている。 ＜�Ｇ啀聖柿顱繕婿骸臺�＞ ●よく整備されており、危険な部分はことごとくクサリにより安全対策が施されている。 ●北峰分岐手前の急崖下をトラバースする部分は天井部分も網で覆われシェルター化されている。 ●上部は急なもろい浮石の斜面となり登山者も多いため上部からの落石には注意が必要。（ヘルメットの登山者もいた） ●頂上直下は急傾斜のため、クサリで自己確保を図るなど滑落防止を図ること。 ●森林限界（3650m）を超えると風が強くなり特に北峰分岐からは風にさらされる。体感温度も下げるため、防風対策を確実に行う。 （登頂の朝は早く出て森林限界を超えると風にさらされるので、限界線下の低木帯でご来光の時間待ちをするパーティーも多いようだ） |
写真
＜10/29＞羽田の朝は早い。飛行場のカフェはほとんど開いていない。ごく一部にモーニングがあったが2800円もしてビックリ。自販機で150円のオニギリ一個を食す。
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ターンテーブルで荷物を待つ。肉類は持ち込めないとある。ハムは肉腿。ソーセージは香腸。ハンバーガーみたいなモノは、含肉餡食物というらしい。中に入っているものを「餡」というのだな。それが転じてアンパンができたのか。
空港でガイドの黄さんと出会いチャーターバスに乗り込む。「黄」はこうさんではなくファンさんというのだそうだ。日本語は達者。日本企業におり50回以上日本には出張に行ったという元商社マン。
途中のSAで昼食。日本式のカレーを食べたが水っぽい。値段は表示価格の5倍が日本円評価額くらい。160NTD＝800JPYくらいか。円安が定着した日本と比べて、高くもないが安くもない。
同行者は、肉入りビーフン麺（180NTD）を食していた。
「びんろうって？」と問うと、やおら黄さんがポケットから出してきたのが生ビンロウの実。どうも小型のヤシの実といったところらしい。食べて見る？で渡されたが何とも苦い。おまけに繊維が多いので最後は吐き出さねばならない。結局、一同意味不明なわけだったが、台湾人にとっては元気の素ということらしい。調べたら覚醒性や発がん性もある。大丈夫？？笑
東埔温泉の谷へと分け入る。堆積岩の横しまが目立つ。台湾はフィリピン海プレートにユーラシアプレートが潜ってできた島。目立った火山はなく大昔の海底の地層が盛り上がっている。
ふう、5時間近く走って東埔温泉街のホテルに着いた。このあたりは台湾原住民部族、布農族の村。「玉山」を聖地として崇めている。顔立ちは彫が深くイケメンが多い（写真本人承諾済）。
ホテルの展示室にあった「須知簿」。重要なことを注意事項として知らせるための帳簿というような意味がある。日本人の記述によるものだが、日本が台湾を統治していた時代に遅くまで抵抗をつづけた原住民の掃討の状況を赤裸々に記述している。「死体を埋葬せり」など戦争状態、殺戮が繰り返されたことがわかる。
同じく展示されていた当時の「原住民族」という名前の雑誌。「原住民族平等」「実現民族解放」などの中国語は日本人でも理解できる。当時の彼らの地位がわかる。
黄さんから、二日間の行動食をもらった。果たして口に合うか？中身は、バナナ2本、菓子パン二つ、おにぎり二つ、エネルギーゼリーなどなど。でも後から考えるとパンなどは甘めで意外に食べられた。
中身は、バナナ2本、菓子パン二つ、おにぎり二つ、エネルギーゼリーなどなど。でも後から考えるとパンなどは甘めで意外に食べられた。
分岐から楠溪林道が始まる。目的地は登山口「塔塔加鞍部」。英語でTataka、日本語でも”たたか”と発音するが、台湾人は「たたじゃ」と発音する。「がんばれ」を中国語では「加油」で「じゃーよー」と云いますが、その「じゃー」。
左が塔塔加警察隊（中国語では塔塔加警察小隊）の建物。向こうに見えるのが排雲登山サービスセンター（中国語では排雲登山服務中心）。
塔塔加鞍部から少し登ったところで振り返る。見ている山は麟趾山。そのたわみが塔塔加鞍部で、峠の向こうは変成岩の世界。いま自分が立っているこちら側は堆積岩の世界。
高山病対策にはこんな道がいいのだ。
モンローと云っても”マリリンモンロー”ではなく（あるわけもないが）米国の経済協力局中国支所財務顧問だったモンロー氏が1952年にここにあった断崖から滑落死したので名付けられた。彼の台湾への貢献を記念したが、ルートは付け替えられたそうだ。
帰りにはここから玉山主峰がキレイに見えたが、行きはガス。
日本と違いユーラシアプレート（左）がフィリピン海プレートに潜り込もうとして潜れずに削がれた付加体が台湾島のようだ。地質は砂岩と粘板岩の互層。昔の浅い海底が圧縮され傾動し地層が滑り面となってつるつるのこの壁になった…という地球ドラマ。
排雲山荘は元は「新高山（にいたかやま）下駐在所」という警察官駐在所だった。日本が台湾を占領していた時代の話。新高山は玉山の日本統治下で明治天皇が名付けた名前。
＜10/31＞高山病に見舞われた早朝。頭が痛い。1時ころ頭痛薬を服用したが、吐き気がして朝食はとてもじゃないがとれない。他のみんなはワイワイ食べていて羨ましい。
富士山の頂上剣が峰のように、強風の中、登頂者たちは列を作って記念写真の番を待つ。黄さんが話をしてくれてわれわれは早いタイミングで写すことができた。風が強くて寒い〜。
玉山圓柏。ギヨクザンエンパク。ハイマツの代わってこの木が沢山生えている。名前に柏が入っている為か、ガイドの黄さんは、これは柏だと説明してくれたが、どうも違うようだ。圓柏は種類で言うと日本で言うところのイブキのよう。園芸品種になるが庭木のカイヅカイブキなどが一般人にはおなじみ。
名前に柏が入っている為か、ガイドの黄さんは、これは柏だと説明してくれたが、どうも違うようだ。圓柏は種類で言うと日本で言うところのイブキのよう。園芸品種になるが庭木のカイヅカイブキなどが一般人にはおなじみ。
今日の玉山は強い風だったが、黄さんによると風がない時もあってそんな時はキレイな「岩ひばり」が飛ぶという。この鳥がどうもそうらしい。。
頂上からは排雲山荘に帰ってきて食べる二度目の朝食。頭痛薬で抑えてはいるけれど、それでもいやーな頭痛は残る。食べられるだけ食べる！と思ったら全部食べられた。。
玉山北峰から見た玉山本峰。排雲山荘にあったポスターをパチリ。今回たどったコースからはこの姿は見えない。前述したがガイドの黄さんも実はこの姿は見たことはないと笑ってた。
ということでお疲れさまでした〜！夕食は登頂記念と打ち上げで黄さんが中学の同窓会をいつもやっているというこの地元色満載のこの店へ！
夜は更けていきました………
夕食は登頂記念と打ち上げで黄さんが中学の同窓会をいつもやっているというこの地元色満載のこの店へ！
夜は更けていきました………
装備
| 個人装備 |
上着
ズボン
毛帽子
靴下
雨具
毛手袋
防寒具
ザック
地図
懐中電灯
ナイフ
磁石
登山靴
呼子
ライター
スパッツ
ストック
替下着
靴紐予備
タオル
常備薬
緊急薬品
日焼け止め
非常食
水筒
トイレットペーパー
モバイルバッテリー
|
|---|
感想
■行動記録
●Day-1（Oct.30）
マイクロに分乗した10人が塔塔加鞍部に降り立つ。
"使用前"の写真を残すと、今宵の泊まり場、排雲山荘に向けて早速歩き始める。
台湾は南の島だからこの季節でも暖かい。
台湾人ガイド、黄さんも一緒だ。
黄はコウでなくファンというのだと自己紹介も受ける。
日本人専門の登山ガイドで、過去日本の商社で働いていて日本に50回以上出張に行ったんだよと笑う。
塔塔加鞍部の標高は2600m。
玉山主峰から西に派生する尾根上にある。
玉山に向けては、尾根南面の山腹をしばらくトラバースしながら徐々に標高を上げることになる。
水平道に近く楽ではあるが高度がなかなかあがらず飽きてくるほどだ。
高山病に弱い自分にとっては高度馴化も必要だからそんな道でも好もしいと思う。
よく整備された径だ。
危険な箇所にはクサリがしっかりとついているし、小沢の横断箇所は鋼鉄製の立派な橋もかかっている。東屋やトイレなどもある。
そんな過保護な登山道を、10人が楽しくおしゃべりしながら快適にトラバースを続ける。
実は玉山山行の発端は約50年前に遡る。
同行メンバーは同じ大学の元WV部員。
そしてHと自分とを除き半世紀前の玉山遠征隊のメンバーだ。
半世紀前の3月、学生だった彼らは遠征隊を出し玉山主峰を狙ったが、前峰・西峰に登頂するも本峰は雪に阻まれ断念したという。
同じタイミングで来ていた四国のK大学パーティーは運悪く滑落し遭難死してしまったという。
山麓から救助に上がってきた台湾警察隊からは協力の要請も受けたが、二次遭難の可能性もあり、断腸の思いで断ったのだという。
登頂断念は適切な判断だったわけだが、三越のお歳暮のアルバイトまでやって行った遠征だっただけに青春の悔しさ、無念さは心に残っていたのだろう。
多忙な人生の半分が過ぎて、心のどこかに澱のように沈んでいたものが、いまになって再アタックの夢となって頭をもたげてきても不思議はない。
玉山登山が一般的になり、山道も見違えるほどに整備され、海外渡航もいとも簡単に行けるようになった。
登山システムもガイドもまたその調整すらもシステマチックにできるようになった現在ではその夢の実現性もまた現実なものとなったのだ。
「実は」はもうひとつある。
昨年のこの時期に”玉山リベンジ”を計画していた。
ツアー会社の申込みも終え飛行機の予約もできていた。
だが好事魔多し、折しもの台風が台湾を直撃することとなり、取り止めにしたのだった。
いや、正しく云えば中止を余儀なくされた。
なぜならば、排雲山荘自体が台風予想に小屋を閉めてしまったからだ。
だから今回がまさに”3度目の正直”のアタックとなったのである。
排雲山荘へのトラバースルートは長い。
半世紀前の”遠征”の思い出話が登山道を歩きながら出てくる。
当時、今回前泊したホテルにほど近い阿里山まで鉄路で入り、そこから先に伸びていた廃レールの上を延々と20km近く歩いたと言う。
今と比べればアクセスもまた一段と悪かった。
当時の鉄道は玉山からの材木の運搬のためだったらしいが、そこが登路になっていたわけだ。
玉山の標高も過去くりくりと変わっている。
当時は測量技術も未熟だったことから3997mとされていた時代であり、頂上にあった孫文の3mの銅像で合わせて4000mと喧伝されていた。(今の標高は3952m)
4000m峰からの陥落のよる当時の台湾人の落胆も想像に難くない。
ウラ話も聴いた。
当時接触のあった台湾人からは「台湾に来る日本人はみんな”三本指だ"」と云われた。
三本指とは親指と人差し指、そして小指。
すなわち親指と人差し指はおちょこをつまむ指で飲酒を意味し、小指は当然、夜の女性のことだ。
要するに当時台湾にやってくる日本人はそれだけを目的にしてやってくるロクなものじゃ無いと揶揄されていたわけだ。
東南アジア諸国に対する蔑視の視線が強かった時代を彷彿とさせる。
登山道は少しのジグザグも交えながら高度を稼ぎ、同時に少し頭痛も覚え始めながら続く。
登山道に小さなタヌキのような動物が顔を出す。
人には慣れており、近くでもあまり逃げない。
黄ガイドの話ではテンだという。
八丈島で有名なキョンも玉山には多く棲息しているらしい。
クマやイノシシは居るが多くはない。
テンは排雲山荘までしばしば登山道に出没してわれわれの写真の対象となってくれた。
やがてモンロー亭を過ぎる。
むろん女優マリリン・モンローであるわけはなく、当時の米国財務顧問だったモンロー氏が滑落死した事を記念して付けられた地名だ。
今はルートが付け替えられて険しさを感じることはできないが、当時の写真を見る限り、登路も道具や技術も確立されていなかったと見え大変な難行だったことがうかがえる。
登山道から見える風景も地層が直立した縞模様だ。
台湾には火山はあるが活発ではなく主に堆積岩でできていてかつての海底がプレートの力を受けて直立してしまっていることがわかる。
思わぬ粘板岩の壮大なジオ景観にみんなで歓声をあげたりした。
通過した大峭壁もまた傾いてしまった当時の海底ということになるのだから人智を超えている。
引き続き黄さんにはゆっくり進んでもらい、夕刻全員無事に排雲山荘に辿り着いた。
排雲山荘は日本統治時代に警察の駐在所として設置された。
当時は、玉山は明治天皇が命名した新高山が正式名称という扱いであり、だから排雲山荘も新高山下駐在所と呼ばれていた。
今は規模も大きくなり、50年前の遠征時の面影はないとメンバーが語ってくれた。
120余りあるベッドのうち、外国人枠は25だけだと黄ガイドは説明する。
道理でなかなか競争率が激しいわけだ。
食事の支給はあるが水の支給はなく、代わりにお湯がもらえるナゾシステムでもある。
登山者は台湾人がメインだが欧米人も交じる。
日本語が聞こえると思ったら日本の美大WV部の2人もいて異国での山談義が弾んだ。
ガイドなしで鉄路とレンタカーで来たとのことだった。
今日ばかりは酒も飲まず、ガイドを入れた10人が2段ベッドにちんまりと収まりシュラフにくるまって一夜の夢を結んだ。
●Day-2（Oct.31）
2時の起床だったが、頭痛がして夜の1時に起きた。
頭痛薬を呑んだが吐き気もする。
他のメンバーはすーすー眠っていて何とも羨ましい限りだ。
2:30には起床となり出発前の第一回の朝食となるが、食欲がまるでない。
口に入れればすぐにでも戻してしまいそうな最悪の気分だ。
3:30に出かける直前になってようやくクスリが利いてきてアルミのお椀1/4のお粥を何んとかかきこんで暗闇に出た。
歩き始めるとAさんが調子が上がらず、止むなくリタイアということになってしまった。
山荘で待機頂き、残りのメンバーで登頂を目指す。
リベンジの旅というのにまことに申し訳ない。
全員で登頂したかった。
ヘッドランプに浮かぶ黄さんの足を後ろから見つめながらゆっくり歩を進める。
相前後する登山者は多く、夏の富士登山のようでもある。
コンチハ代わりにニイハオを合言葉に、抜きつ抜かれつ高度を稼ぐ。
首が痛くなるような暗闇の仰角にちらちら光の点滅が見える。
うわー、あそこまで登るのかぁ！と言う感じだ。
3650mあたりで森林限界を超え、”見慣れない低木”が匍匐する斜面となる。
黄ガイドが「カシワだ」と言う。
「玉山圓（円）柏（ぎょくざんえんぱく）」という樹種らしく台湾名ではカシワが入るが日本語で言うところのイブキらしい。
庭木で有名なカイヅカイブキの仲間だ。
台湾ではこの圓柏（えんぱく）が日本のハイマツに代わって玉山の高山帯を支配しているように思えた。
玉山南峰への分岐を分けると、しばらくで「富士山の高さ（3776m）を越えた」と誰かがつぶやいた。
少しずつ温度が下がってくるのがわかる。
腰高の圓柏（えんぱく）よりしゃがんで、しばしば休憩をとる。
風を避けながら時間を稼ぎ、同時に高度馴化もしようという算段だ。
このまま上に行っても風に吹かれ寒い思いもするし暗くて何も見えない。
ご来光の時間に合わせて登頂できるのがいちばん良いのだ。
気が付くと植生はなくなり、代わりに登場する露岩を攀じる。
クサリが連続的に張られ危険はあまり感じない。
北峰分岐直下の北西トラバースに入ると天井を鉄の網で覆ったシェルター状の”通路”となり、いきなり尾根を越えてくる強い風に晒される。
気温は5度。
雨具を着たり、ダウンを羽織ったりして防寒対策をする。
強風にひときわ寒さが染みる。
子どもの頃のように皆でおしくら饅頭をしてワッショイワッショイなんて笑いながら身体を動かして保温に努める。
Mさんから熱いカフェオレをもらって飲むと胃の腑へと染みていった。
シエルターは落石防止のためだが、上部に登路があるから、自然落石よりは人工落石防護のようだ。
北峰の分岐を過ぎるといよいよ険しくなって一部には手足を使った登りとなるがクサリはしっかりとある。
主峰への登りしばしでとうとう絶巓に到着した。
風が強い。
気温は0度。
明るくなっては来たがガスっていてご来光どころではない。
日本統治時代に埋設された一等三角点にそっと手を触れる。
頂上は登頂者でごった返していて、富士山の剣が峰のように写真撮影の列にもなっている。
黄ガイドに周囲の台湾人に話してもらって記念写真を撮ってすぐに下山にかかった。
排雲山荘では2回目の朝食。
山荘で待機いただいていたAさんとも合流して全員で記念写真を撮る。
3度目の正直の笑顔ーそれはまた格別なものがある。
帰路は往路をとる。
肩で背負わず、頭に太い帯をかけて重い荷物を担ぐ若い歩荷（ぼっか）たちにしばしば会う。
排雲山荘への食糧やらガスなどの物資の輸送はヘリでなく、もっぱら彼らの背中に頼っているように見えた。
彼らの顔立ちはクッキリとしておりこの玉山周辺に分布する台湾原住民、布農族と見えた。
彼らはまた古来、玉山主峰を聖山として崇める民族でもある。
前泊したホテルフロントの青年も目鼻立ちがはっきりしたイケメンであり、黄ガイドも台湾人とは違う人種なのだと自分の耳に囁いた。
フロントのその青年に訊いたところでは東埔（とんぷー）温泉を中心に8000人ほどが棲んでいるらしい。
ホテルのガラスケースには、かつて頑強に抵抗した布農族を日本軍が掃討した「須知簿（重要なことを知らしめるための記録）」の展示もあった。
日本人が書いたであろう戦闘記録には「死体を埋葬せり」なんて記述もあったり、その隣には「少数民族」なる雑誌も陳列されていて民族の自立自決主義を訪問者にも理解して欲しい展示のように見えた。
今の玉山の平和登山が、そういった語ることも苦しくなるような布農族の苦闘の歴史に支えられているのだ、と背中の大きなプロパンガスの缶を見ながら反芻した。
台北に戻ってから大リーグのワールドシリーズ第7戦を見た。
押されていたドジャースも最終回に同点に追いつき延長戦を制して、長かったワールドシリーズを勝利で飾った。
比ぶべくもないわけだが、我々の三度目の正直となった日本と台湾を繋ぐ”ワールドシリーズ”もそうした登頂の喜びのうちに幕を下ろすこととなった。
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