涸沢岳 〜21峰登頂、そしてもう一つの原点回帰〜


- GPS
- 19:57
- 距離
- 38.8km
- 登り
- 1,973m
- 下り
- 1,953m
コースタイム
- 山行
- 2:36
- 休憩
- 0:25
- 合計
- 3:01
- 山行
- 5:12
- 休憩
- 1:02
- 合計
- 6:14
- 山行
- 5:28
- 休憩
- 1:52
- 合計
- 7:20
- 山行
- 1:32
- 休憩
- 0:02
- 合計
- 1:34
天候 | 8/10 晴れ 8/11 晴れ時々曇り 8/12 晴れのち曇り 8/13 晴れのち曇り |
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過去天気図(気象庁) | 2024年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
8/13 上高地バスターミナル発9:00(路線バス1500円)平湯温泉バスターミナル着9:25、発14:30(毎日あるぺん号、10000円)新宿駅着 |
コース状況/ 危険箇所等 |
小梨平〜明神間通行止めのため、岳沢湿原経由で明神へ行く必要がある。 徳沢〜横尾間は、従前の左岸ルートを行ける。 |
その他周辺情報 | 横尾山荘 2段ベッド、カーテン付きで快適。浴室あり。夕食先着順。 穂高岳山荘 一人1畳、仕切あり。夕食おかず豊富。 徳澤園 山小屋と思ってはいけない。チェックイン14時以降、シャンプー備え付けの浴室、飛騨牛ステーキがメインの夕食。そしてカプセルホテルのような相部屋。 ひらゆの森 もう何度目だろう。露天風呂もレストランも休憩処もゆったりとしていて、下山後の疲れを癒してくれる。 |
予約できる山小屋 |
横尾山荘
|
写真
感想
脇役的な一峰に登るために、3泊4日の山行計画を企てた。なにしろ昨年秋以来登っていない。体力低下に加え、勘の鈍りが心配だった。コースタイムの1割増しで計画を進めた。涸沢岳を対象としたのは、至極単純な理由、標高3000メートル以上の峰21座すべてに登りたいという思いからだった。
北陸新幹線とさわやか信州号を組み合わせて、昼前に上高地入りした。今日の行程は3時間あまり、何度となくかよった道のりだから9ヶ月ぶり登山の初日に相応しい、はずだったが、歩き始めてすぐさま事前調査の甘いことを思い知らされた。先月の豪雨により、小梨平と明神間が通行止めとなり、岳沢湿原経由の迂回路を利用する必要があったのである。
というわけで、好むと好まざるとにかかわらず、昨年秋にも通った岳沢登山口に向かった。時間のせいかとにかく観光客が多い。遊歩道のすれ違いや渋滞に難儀しながら歩くこと1時間、明神館に到着した。それほどの時間ロスのないことに安心し、目的地を目指す。
徳沢までの道中、明神、徳沢間の道を何度通ったのか数えながら歩くことにした。表銀座縦走後初めて通って以来10度、そのいずれにも忘れがたい思い出があった。記憶をたどっていると自然に速まるものか、40分後には徳澤園でカレーライスとソフトクリームの選択に迷っていた。
横尾までは従前の左岸を行くことができた。炎天下、木陰はありがたい。体調も良好であり、横尾山荘には15時前に到着した。チェックインを済まし、二段ベッドに収まる。カーテンもあり、なかなか快適だった。夕食は17時半から先着順、食後は山荘前で空を見上げ、明日への期待に胸をふくらました。
8月11日、山の日、例年どおり予想どおり、空は晴れ渡っていた。標高差1350メートル、コースタイム5時間40分、今の私にとってチャレンジであることは明らかだったが、達成できる気でいた。
5時10分、横尾をあとにする。傾斜が大きくなる頃、足の重さを意識するようになった。当然のように後続に道を譲る。やはりブランクと歳には逆らえないのか。本谷橋にてすでに予定以上の疲労を感じていた。
けれども眼前に穂高連峰が姿を現した瞬間、その疲労は一気に吹き飛ぶ。待ちに待った瞬間だった。嬉しくて何枚も構図に収める。
昨年夏、およそ30年ぶりに槍穂高の領域に足を踏み入れた。中学3年の夏、槍ヶ岳から穂高連峰の雄姿を見て以来、私は山の虜になった。かの山々は私の登山の原点であり、心の拠り所になった。よもや山から遠ざかる日が来ることなど、そしてその訳が穂高であることなど思いもせずに。
涸沢小屋には、何とかコースタイムどおりに到着した。25分の休憩を取る。この行為がいけなかったのかもしれない。再び歩き始めてから30分後、両足に異変が生じた。痛みで動かせない。かつて、奥多摩で一度だけ味わった苦痛だ。休んでは歩き始めてすぐに止まらざるを得ない。引き返すことを真剣に考えたのち、だめもとでマッサージ、ストレッチを繰り返した。
結局、30分以上費やしてようやく足が上がるようになり、ヘルメットを装着してザイテングラートを目指す。しかし、すでに疲労困憊、取り付き点で再び20分以上の大休止を選んだ。
いつになくすれ違いが億劫である。ペースを乱されることにいら立ちを覚えるほどだった。時折、風が頬を撫でる。前穂高岳や常念岳を望みながら、気力のみで進んでいた。
13時前、横尾から実に7時間45分かけて白出のコルに到達した。穂高岳山荘前はざわめいていた。人々は、数分前に眼前で起きた滑落事故について語り合っていたのだった。私は、倒れそうだったので、チェックインをしてすぐに部屋へ逃げ込む。
47年前の夏、ここで私たちは待ち合せた。涸沢定着から上がってきた私たちは、大キレットから近づいてくる彼を待った。そして時間どおりに現れた友を、高校2年生だった私は誇らしく迎えた。共に登った唯一の山、奥穂高岳。彼ともう一度登りたかった山。今、目の前にそれは存在する。
仮眠を経て、談話室にてココアをいただく。ようやく回復してきた。チャレンジの未達を噛みしめながら明日の好天を祈る。夕食は17時から、皆おかずの豊富さに満足していた。いつものように18時過ぎには横になる。
8月12日4時過ぎ、山荘をあとにして涸沢岳に向かう。テント場を抜けると、東の空がうっすらと明るくなるのを感じた。上空に雲は無い。風もかすかだった。この上ない好天に感謝する。
4時30分、残る1座、涸沢岳山頂に立った。感慨深かった。そしてこの山の素晴らしさを知った。槍ヶ岳、大キレット、北穂高岳、奥穂高岳、前穂高岳、ジャンダルムすべてを近くに望み、そして富士山、御嶽山、南アルプス、八ヶ岳、常念山脈、双六岳から笠ヶ岳に連なる稜線などを視界に収めることができた。ため息をつきながら山々を見つめる。
やがて常念岳の右から朝日の昇ることを知る。5時7分、その日最初の光を得た。それは、みるみるうちに奥穂高岳を染め上げてゆく。北穂高岳へ向かう人々を見送って、私は山荘に戻る。もう一つの目的を果たすために、下山を開始した。
前日、疲労困憊になって登ったザイテングラートを順調に下る。日差しは強く、非常用0.5リットルを残して、レトルトパイナップルを含めたすべての水分を消費した。往路同様、涸沢小屋で休憩を取り、連峰を見上げる。また来ます。Sよ、また会おう。
横尾には10時過ぎに到着した。いくつかの団体を含め多くの人々が休んでいた。今日は、あと1時間の行程である。必要以上にゆっくりと休憩を取った。
徳澤園の食堂からは人があふれていた。再びカレーライスを諦め、宿泊棟へ。目の前には「チェックインは14時からです」の看板。衝撃を受けていると、「専用のラウンジがありますので、それまでそちらでお休みください」の案内。トクサワベースと呼ばれるそこで、ピッツアとコーラを味わう。横にはなれないが、快適な2時間半を過ごすことができた。
14時、チェックインをしてからすぐに浴場に向かった。シャンプーの存在が、一日早い入浴の動機になった。談話室で、およそ山小屋のそれとは思えぬほど美味いアイスコーヒーを味わい、その後は話題の相部屋でくつろぐ。カプセルホテルのごとく快適なその空間には、窓、机にもなる棚、個別照明、コンセントが備わっている。館内の至るところに5代目のこだわりが見られた。夕食は、飛騨牛ステーキとイワナの塩焼きがメイン。聞きしに勝る美味であった。
氷壁の宿というよりも、私にとっては「かおるの待つ宿」である。中学2年のとき、私は「氷壁」と出会って、登山の厳しさと奥深さを知った。そして、主人公、魚津の生き方に憧れた。彼が恋人の待つ場所へ向かう姿は、登山という行為に惹かれるのに十分な情景だった。それは、大切なもう一つの原点。
台風5号の接近に伴い、天気予報はめまぐるしく変化していた。最終日は、9時に上高地を離れる予定であったから、それほどその変化に敏感ではなかったが、なるべく雨具は使いたくなかった。幸いにして、好天は続き、「河童橋のソフトクリーム」には長蛇の列が出現していた。横目に見ながらバスターミナルへ、ひらゆの森へと急ぐ。無事の下山を、何よりまた山に登れたことに感謝しよう。あの気高き峰々を思いながら。
標題の涸沢岳に先日自分も登ったのと、涸沢岳だけというのに興味を持ち拝見させて頂きました。
感想を見ていて、なんというか何か小説を読んでいるような感覚を覚えました。また、私も中学生の頃に親戚の叔父叔母の影響で山にはまりましたが、学生の身分ではそれほど山に行けない分、色んな山の本を読みました。新田次郎や氷壁も勿論読み、山や登場人物にとても憧れたのを久々に思い出しました。
すいません、感傷的になり何となくコメントさせて頂きました。
コメントをありがとうございます。
3泊で涸沢岳だけという贅沢な登山をしました。それでもなまった身体には厳しかったのですが、どうにか節目の山旅にはなりました。
100高山完登おめでとうございます。
プロフィールを拝見しました。
これからたくさんの記録を読ませていただきますね。
ここ数年、夏のザイテンを上がっていないのですが、最盛夏の賑わいや穂高岳山荘周辺の賑わいに触れたかったな〜、、と指を加えてみなさんのレコを拝見していたので、kimichin2さんの写真や表現一つ一つのお陰で、一緒に登ってその賑わいを味わっているような感覚になれました。
足の攣りはツラいですよね。昨年のお盆休みに私も両脚攣ってしまってどうしようも無く1時間近くも悶えて泣いて過ごしたので、お気持ちよーく分かります。それ以来、暑さのせいなのか運動不足か年なのか原因は分かりませんが、以前よりも攣ることが増えてしまっていつも騙し騙し登ってたりします。
ご多忙かもしれませんが、またkimichin2さんのステキな写真と記録、安定感抜群のレコを楽しみにしておりますので、ぜひ心と足の赴くままに山行を続けて行ってください(^^) 引き続き首を長くしておきます!
最も賑わう日に人気の場所に居たはずなのですが、密集状態でなかったためか、山時間を満喫できました。
ハルボーさんでも足が攣ることあるのですね。
今回は、本当にどうしてよいものか悩みました。結果的に登山を続けられて良かったのですが、準備運動や日頃の鍛錬の不足を反省しています。
山に居られる幸せをまた感じることができました。
時間を見つけて、でも計画的に山に向かおうと思います。
ハルボーさんの楽しい、時に驚きのレコを待っています。
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