木曽駒ヶ岳〜三ノ沢岳


- GPS
- 07:20
- 距離
- 8.7km
- 登り
- 908m
- 下り
- 907m
コースタイム
- 山行
- 1:50
- 休憩
- 0:45
- 合計
- 2:35
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2025年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
|
写真
感想
家内は先月、比叡山と沖縄で軽いハイキングをした程度で、しばらく山行らしい山行をしていない。久しぶりに高山に行く気になったので、中央アルプスの千畳敷からのお気楽なテン泊山行を考える。以前より三ノ沢岳を訪れてみたいと考えていたのだが、夏にここを訪れるのであれば稜線上に一泊してからがいいと思っていた。
中央アルプスのテント場は木曽駒の山頂直下にある頂上山荘のみに限られていたのだが、最近になって宝剣山荘にもテント場が出来たことを知る。わずか10張限定らしいので、予約が必須である。
駒ヶ根駅発のしらび平行きのバスは我々が乗り込んだ時には他は無人であったが、菅の台バスセンターに到着すると、大勢の人が乗り込んで満員となる。テン泊装備の登山者が数組いるものの、そのほとんどは観光客の様だ。
しらび平は既に標高は1700m近く、気温は22℃と十分に低い。ロープウェイは本来の時刻表は30分間隔ではあるが、利用客が多いため9分間隔で運行している。ロープウェイが出発するとすぐにも雲の中へと入ってゆく。
千畳敷に到着しても雲で視界は全くないものとばかり思っていたが、急速に雲が上がり、伊那前岳から乗越浄土に至る稜線が雲の中から現れる。この千畳敷から眺める景色が特異なのはカール特有の緩やかな円弧とそれ縁取るピークの碧と鼠色の岩肌のコントラストにあるだろう。特に天に向かって牙を剥いたような主峰の宝剣岳とそれに連なる属峰が次々と雲の中から顕れる様はなんとも壮麗である。
雲が上がると同時に乗越浄土にかけて急峻な斜面を登山者達が列をなしているのが視界に入る。この時間から登る人は少ないので、ほとんどは下山している人だろう。千畳敷の駅からは「整理券番号361番から420番をお持ちの方〜」とアナウンスが入る。ロープウェイに乗るまでは1時間待ちとのことらしいので、単純に計算すると400人近くの人がこの千畳敷の駅の周辺でロープウェイを待っている計算になるだろう。とはいえ、1時間ならまだマシだろう。かつて、紅葉の最盛期に木曽側から駒ヶ岳に登り、この千畳敷より下山しようとした時は2時間近く待たされることになり、この千畳敷に降りてきたことを後悔したことを思い出す。
千畳敷の周囲には遊歩道が整備されているが、登山道との分岐には「これより先は登山の装備が必要」との注意書きが書かれている。雲の中を登ること30分少々で乗越浄土に到着する。すぐ目の前が宝剣山荘である。小屋には30名ほどの大パーティーが到着するところであった。これから下山というのは考え難いので、宿泊されるのだろう。受付を済ませると早々にテントを張りにいく。
テントを張り終えたのは16時前、木曽駒ヶ岳を往復するにはいい時間だ。稜線の周囲は雲の中であったが、中岳へのトラバース道を歩き始めると中岳にかかる雲が取れてゆくところだった。トラバース道を過ぎると目の前に木曽駒ヶ岳のなドーム状の山頂部が現れる。鞍部から東側の平坦地にはテントがびっしりと張られている。
木曽駒ヶ岳の山頂への登りはわずかだ。山頂には20人ほどの人がいただろうか。南の方角だけ雲が晴れているので、皆一様に南側を眺めている。そのうち、宝剣岳の鋭い尖峰が雲の中から現れると、山頂にいる人々から「うわぁー、かっこいい」「宝剣、いいねぇ〜」などと歓声が聞こえてくる。
山頂を後にすると復路は中岳のピークを越える。木曽駒ヶ岳から眺めるとかなりの登り返しのように見えるが、それは目の錯覚であり、実際には緩やかな斜面を登り、すぐにピークに到達する。
テントに戻るとすぐ近くにテーブルのような大きな平たい岩があったので、夕食を広げる。この日はバケットにクリームチーズとバター、成城石井で入手してきたパテ・ド・カンパーニュ、大葉のペーストを混じたポテト・サラダから始める。後半はガーリックをオリーブ・オイルで炒めて、キノコと牛肉のリゾットを調理する。
食事を終えると西の空を広く覆っていた入道雲がいつしか霧散し、美しい夕陽が雲の彼方に沈んでいくところであった。小屋に泊まっている人が大勢、小屋の裏側の稜線で夕陽を眺めている。夕陽が沈むまでのわずかな間、宝剣岳が茜色に輝く。陽が沈むと途端にその輝きは失せて、鼠色の岩峰は再び険阻な様相を帯びるのだった。
陽が傾くと急に気温が下がる。気がつくと息が白くなっていた。稜線上なので風が懸念されるが、この日は有難いことにほとんど風がない。
水を補給しに小屋に入ると、食堂は歓談を楽しむ大勢の宿泊客で賑わっていた。テントに戻りシュラフに潜り込むと早々に就寝する。
翌朝は4時に起床する。あちこちのテントから人が起き出した音が聞こえてくる。コーヒーを淹れ、温めたピラフで簡単な朝食を済ますと、テントの撤収に取り掛かる。夜中にほとんど風がなかったせいもあり、テントのアウターは結露が著しい。パッキングを終了し、出発の準備が整ったのは5時前であった。既にヘッデンの明かりは不要なほどに十分に明るくなっている。
宝剣岳の登りは上手く登山道がつけられており、峻険な岩場に不慣れな家内でも怯むことなく登ってゆくことが出来る。緊張を強いられる場面としたら、山頂直下をトラバース気味に登る鎖場くらいだろう。山頂に到達すると、東の空から朝日が昇ってくるところだった。
岩峰の山頂からは360度の好展望、東には南アルプスの稜線とその上に富士山の端正なシルエット、南に空木岳、南駒ヶ岳に至る中央アルプスの主脈、西には雲海に浮かぶ島嶼のように御嶽山、乗鞍岳、北アルプスの槍・穂高連峰が浮かび上がり、昇る朝日がこれらの頂きを淡い茜色に染めてゆく。すぐ後から登ってこられた男性が「木曽駒ヶ岳の山頂よりこちらの方が俄然、景色がいいですね〜」と仰る。男性はこの日のうちに空木岳から菅の台に下山する予定らしく、すぐにも稜線を下って行かれる。
ひとしきり日の出の眺望を堪能すると稜線を南下する。三ノ沢岳への分岐のなだらかな尾根はすぐ近くに見えているのだが、岩場を降りたと思うと属峰の小さなピークが次々と現れる。三ノ沢岳への分岐にたどり着き、宝剣岳を振り返ると、要した時間の割には山頂は未だに近くに見えるのだった。
三ノ沢岳にかけての長い吊尾根にはハイマツによる緑のベルベットが広がり、その中に一筋の登山道が続いているのが見える。分岐の近くの登山道脇にリュックをデポすると、早速にもハイマツの中を下ってゆく。まもなく後から単独行の男性が我々に追い越していった。
ハイマツは多少の夜露を纏ってはいるが、笹原ほどは服を濡らすことはない。鞍部に至るとハイマツの低木の中には紅い実をたわわにつけたナナカマドが目立つ。鞍部までは稜線の影となっていたが、鞍部から先で日向に入るとハイマツは既に乾いている。尾根の周辺では時折、黒い小さな鳥が飛んでいる。ホシガラスだ。
ハイマツ帯の登り返しを登り切り、いよいよ山頂かと思いきや、下から見えていた三角形のピークはca2830mの偽ピークであった。三ノ沢岳のピークへの尾根の南側をトラバースして、あとわずかだ。いよいよ山頂直下というところで、クークーという聴き覚えのある可愛らしい鳴き声が聞こえる。どこかに雷鳥がいるのかと思って見回すと、なんと目の前の大きなに一羽の雷鳥が留まっているのだった。
クークーという鳴き声が聞こえたのは岩の下の草地で、小さな雷鳥の雛がよちよちと歩き回っている。毛がふさふさしている様子なので、生まれてまださほど日が経っていないのだろう。雛を見ていると、ハイマツの茂みからも別の雛が這い出してくる。岩の上に佇むのは母鳥で、雛達を見守っているのだった。
山頂に至ると先行者の男性が去って行かれる。恵那峡のSAで入手したお焼きを頬張り、ここでも360度の展望を眺めながらしばし休憩する。復路につくと、後から来た単独行の女性が先ほどの雷鳥の親子を眺めていた。女性は「ここまで来た甲斐があったわ」とのこと。確かに、この雷鳥の親子の姿はこの山の想い出に格別な一頁を刻んでくれる。
再び鞍部にさしかかると次々と三ノ沢岳に向かう登山者達とすれ違う。前日に木曽駒ヶ岳の頂上山荘に泊まられたか、早朝のロープウェイで千畳敷から登って来られた人達だろう。千畳敷から木曽駒ヶ岳を往復する登山者に比べれば数は少ないだろうが、それでもそれなりに人気の
分岐に戻ると千畳敷の方から雲が登ってきており、主稜線の東側はほとんど雲の中である。宝剣岳にも雲が掛かろうとしている。時間は9時である。夏山は午後になると雲が上がってくるものというのが一般的な認識だろうが、近年は午前中から気温の上昇が著しいので、この時間からでも既に稜線が雲に呑み込まれることになるのだろう。
千畳敷に向けて降っていると下から若者三人が登ってくる。「この先に絶景ポイントがあるんですか」と聞かれるので「稜線に雲がかかっていなければ景色は素晴らしいですが・・・」とお答えする。彼らの足元を見ると男性の一人はサンダル、女性はパンプスであった。「登りはいいでしょうが、下りはかなり厳しいでしょう。」と助言するが、若者達は怯む様子もなく登って行かれた。
千畳敷は雲の中であったが、霧の中から微かに宝剣岳のシルエットが垣間見える。ロープウェイの山頂駅の周りには到着したばかりの多くの人で混雑していた。丁度、ロープウェイが出発したところではあったが、相変わらず9分間隔で運行しているお陰でそれほど待たなくて済む。この時間にはまだ下山する人は少ないものかと思いきや、30人以上が乗り込むことになった。
しらび平から臨時のバスで菅の台に戻ると、早太郎温泉のこまくさの湯で汗を流す。その後はソースかつ丼で有名な明治亭を訪れる。数組の客が順番待ちをしていたが、いずれも店内を希望しておられるらしく、すぐに屋外のテラス席に案内してくれる。渓流に面しており、酒とランチを楽しむには格好のロケーションといえるだろう。食事を終えると店の前には空席を待つ人達がかなり増えていた。やはりここは相当な人気店のようだ。
菅の台は涼しさが感じられるが、山の端だからだろう。菅の台からバスで駒ヶ根バスセンターに移動すると、標高は菅の台とはわずかしか違わない筈だが、急に暑さが感じられる。それでもさほど不快に感じないのは空気の湿度が低いせいだろう。京都に帰還すると信州の空気がいかに過ごし易いものだったかと痛感するのだった。
コメント
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ご無沙汰しています。
三の沢行ってみたいなぁと、眺めていました。
目を凝らせば見える距離だったのでしょうね。
今年は個人的に雷鳥に縁遠いようで、羨ましい限りです^_^
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