奥利根横断 上ゴトウジ沢〜小沢岳〜小穂口沢南沢〜十分沢〜平ヶ岳


- GPS
- 29:24
- 距離
- 58.3km
- 登り
- 4,717m
- 下り
- 4,246m
コースタイム
- 山行
- 10:50
- 休憩
- 0:14
- 合計
- 11:04
- 山行
- 11:12
- 休憩
- 0:29
- 合計
- 11:41
- 山行
- 5:52
- 休憩
- 0:24
- 合計
- 6:16
過去天気図(気象庁) | 2025年03月の天気図 |
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アクセス |
戸倉ゲートに下山後は戸倉の集落まで歩いてバスで沼田駅〜石打駅。駅からタクシーで清水。他の駅のほうが迎車代含めると安価だったかも。 |
その他周辺情報 | 戸倉の戸倉中のバス停は酒屋の真ん前にあるので祝杯上げるには最適と言える。 |
写真
感想
今季は雪がよく降った。冬型の気圧配置が続いたおかげで上越国境稜線を越えた上州側でも降り続き、奈良沢や小穂口の観測点でも積雪がどんどん増えるさまを確認しては、ようやく奥利根に向かえるだろうかと目論む日々。諸々の不安要素は尽きないが、年齢的にも体力的にも仕事的にも、そして雪の量的にも今季に向かわねば一生奥利根の山スキーを味わえないのではないかと。
日帰り山行では国境稜線を越えて奥利根右岸の沢や尾根をいろいろ楽しみつつ、山行のイメージを練っていた。中でも沢を滑った後の登り返しで辿った刃物ヶ崎山尾根、柄沢山北東尾根、トトンボ尾根の地形とブナ林の美しさに魅入られてしまい、奥利根を渡るならばまだ歩いていない気分の良い尾根をつなげたいと考えるように。となるとまず奥利根横断の主要ルートとも言える剣ケ倉歩き尾根が浮かぶ。それにいつも奈良沢の対岸に望みつつも向かえていない三番手山の南西尾根も必須だろう。ネコブ山からの上銅倉沢も念願の1つであり、多雪の今季ならば「ハイグレード山スキー」にある真っ白な風景を味わえるかもという期待もあったが、奥利根のブナ林に浸るという欲求が勝り今回のルートに。(今思えば米子頭からトトンボ尾根を下れば良かったではないか…)
【1日目:3/20】
2日目午後から強風となる予報だったため距離を稼いでおきたいので巻機山も柄沢山もなしで米子沢からの風這イ(1646m)から上ゴトウジ沢へ入る。米子沢を詰めるのは念のため避けて途中から栂ノ沢に入る。先週末はカチカチの雪だったがこの日は新雪たっぷりで程よいラッセル。国境稜線に立つと小沢岳も遠く見えるが平ケ岳がそれよりはるかに遠い。今回の山旅が楽しみになってくる。上ゴトウジ沢に滑り込みやや硬めの新雪を傾斜が緩むところまで滑走し、以降は南西尾根取り付きまでヒールフリーで。先週見たオコジョは現れなかった。奈良沢で水を汲みしっかりと水分補給。
三番手山南西尾根は最初はやや傾斜が急だが、今季の雪の多さのためか面倒な箇所はなし。期待通りの尾根歩きを満喫。何より上越国境稜線や今季歩いた尾根を対岸から眺められるのが素晴らしい。この景色はなかなか味わえない。上部は緩傾斜の広々とした地形。写真を撮りすぎて先に進まない。三番手山を過ぎて稜線に出たあたりから西の空に雲が広がり始め、やがて周囲にも雲が湧いてくる。小沢岳に着いた時点で雲の中。小穂口沢に滑り込んでもう少し進んでおきたかったが止むなし。時間はまだ余裕があるし稜線上のテント泊で風に吹かれるのも辛いのでイグルーをつくりはじめる。相変わらず建造スピードは遅いものの、かるかた雪が豊富で1時間半ほどで屋根を掛けるところまで。日没前にガスが抜けて夕日に山々が染まる。ウイスキーがたまらなく美味しい。旨い酒のために山をやっているのかもしれない。
【2日目:3/21】
硬くきりっとした朝焼けから核心の一日が始まる。この日の行程には気にかかる点が多々あり、自身初の奥利根横断にふさわしい緊張感。
・小穂口沢から利根川源流にかけての雪の状況
・歩き尾根の下部にあるというギャップ
・剣ケ倉山の先にあるという難所
・午後から風がかなり強まる予報
・そのため早目に平ケ岳を越えて標高を落とす必要
まずは小穂口沢の南沢に滑り込む。小沢岳は今回が3回目だがスキーで来るのは初めて。東面の広々とした谷が気持ち良さそうだと思った記憶があるが、今回そこを滑ることができた。山を続けているとかつて夢想した景色が現実となることもあるようで感慨深い。そしてこの先は個人的には未知の世界、緊張感も高まる。1400mくらいからモナカが混じりだしてしんどいが、雪面は硬くて板は走る。北沢との出合は穴が空いており、出合上部の北沢も少しだが流れが出ていた。右岸を軽く巻いてブナ沢目指して下る。両岸は急斜面の険しい地形となり奥利根を感じさせる。ところどころデブリが落ちているが下るには問題なし。地形図上の魚止滝も埋まっていてどこか分からない。ブナ沢は開けて穏やかな沢。途中で尾根に上がり、十分沢と隔てる尾根の鞍部を目指す。
登高中、本谷山方面を眺めると、十分沢の源頭に複数のスキーの滑走跡が刻まれている。おそらくこのトレースの主たちも十分沢から歩き尾根を経て尾瀬へと向かうのだろう。そう考えると緊張が和らぐとともに、自分だけの山が十分沢への下降までで終わってしまうという悲しさも湧いてくる。特に目新しいルートとは言えなくとも、今日この日だけのトレースを自分の足で刻むことができれば充実感も大きいに違いないのだが、先行者のトレースがあるというだけでこの山行の手応えが格段に変わるような気がした。
ブナ沢から十分沢の右岸尾根に上がると、歩き尾根から平ケ岳への全貌が見えてくる。利根川の核心部は見えない。目を凝らして歩き尾根への取り付きはどこが良いかを検討。利根川をある程度登れば優しげな支尾根があるが本流の状況はわからない。剣ケ倉沢を少し登って尾根に向かうのもなんとかなるかもしれない。歩き尾根末端から登るのは針葉樹が連なるヤセ尾根のようであまり向かいたくはない感じ。
ともかく時間が惜しいので手早く準備して十分沢へ滑り降りる。もう引き返すという選択肢はない。北面の樹林帯の沢で新雪は深く軽く、今回の山行で最も滑りを楽しめた。沢に降りるとやはり先行者のトレースがあり、それに沿って下る。デブリは多いが大規模なものはまだない。両岸の上部には今にも落ちそうな雪庇やブロックがあちこちに。とはいえ沢床の雪はたっぷりで、途中でシールを張ってしばらく進めば難なく歩き尾根末端に。
ちょうど単独の山スキーヤーが尾根に取り付いたところで、その上部にはまた山スキーヤーの後ろ姿が見える。ここまでは剣ケ倉沢を少し登った先から尾根へ向かうつもりでいたのだが、複数の先行者が尾根の直登を選択しているのを目にすると、そちらでも問題ないような気がしてきて自分もそれに続くことに。このあたりにもまた自分の山とトレースとは異なるものが混ざってくる気がするのだが致し方ない。つぼ足アイゼンとシールを織り交ぜてしばらく進むと数mの垂直かハングに近い段差が現れる。先行パーティーはすでにそこを通過して先に行き始めたところ。痩せ尾根で両岸の傾斜はきつくなかなかに嫌らしい難所であり、今までなら泣きそうになっていたかもしれないところ。しかし今季は悪場系山スキーヤーにだいぶしごかれた(もとい、鍛えられた)のもあり、適度に恐れつつ慎重に一手一手を選ぶことで無事に通過(後で先行Pに聞いたら懸垂したとのこと。確かにそれが正しいだろう。ロープ出すべきだった。ちなみに下山後に「奥利根の山と谷」を見返すと、尾根末端から取り付くよりも剣ケ倉沢に入って最初に左手に入る枝沢をつめて尾根に出たほうが無難との記述あり)。単独山スキーヤーが無事にそこを通過するのを見届けてから先へ進む。
すぐに尾根は広々としたブナ林となり、歩き尾根の真髄を見せ始める。振り返れば越後沢山から本谷山の東面が険しい表情を見せ、今日の発地の小沢岳はずいぶん遠く、巻機山方面は霞んでいる。写真を撮るため何度も足を止めているのはあるが、なかなか先行Pに追いつかない。たまに姿は見えるがだいぶ歩くのが速いのだろう。剣ケ倉山の少し手前で休憩するPにようやく追いついた。B会の若手3名、三国川ダムから入山したとのことで、先ほどの単独山スキーヤーとも、荒沢岳を目指したKさんとも行きあったと。曰く、せっかく奥利根に来たのに人は多いしずっとトレースがあって物足りなかったとのこと。分かる、もしかすると結構気が合うかもしれない。
尾根を進むにつれオオシラビソが増えてきて、利根川を渡ったのだと実感される。剣ケ倉山には15時着、だいぶ時間も押してきている。大水上山から平ケ岳へ続くスノーシューのトレースあり。稜線は痩せた雪稜となり板を背負う。自分が先行すると腰が引けて後続は渋滞必至なのでB会Pに先に行ってもらう。このあたりから風が強まり始める。雪稜を通過してシール登高を再開するがとにかく風が強く、ときおり雪煙で前が見えなくなる。平ケ岳あたりで泊まりたいという願望もあったが、もはや早く山頂を越えて下ることしか頭に浮かばない。追い風参考ではあるが我ながらだいぶいいペースでラッセルした気がする。
山頂付近からスキーのトレースが見え始め、山頂を越えるとかなりの数のトレース。戸倉側から結構な数の山スキーヤーが平ケ岳を訪れていたらしい。日は傾き、雪面を赤と青に染めて美しい陰影を施すが、はやく強風から逃れて落ち着き幕営したいのでカメラを出す寸暇も惜しい。硬いモナカの緩いアップダウンを急ぎ足で進み、白沢山を越えたところでオオシラビソの風下側を幕場とする。すでに日は沈み残照も薄れている。まずはウイスキー、空きっ腹に染み渡る。
【3日目:3/22】
夜は無風で実に静かでよく眠れた。この日は下るのみ、遅めのスタートとする。トレースの入り乱れる雪面を歩くともはや昨日までの緊張感や高揚感はどこへやら。この日も快晴となり、風もさほど強くない春の空気の中を淡々と進む。
当初は3泊4日の計画かつ非常食も持っていたので、この日も山の鼻付近に泊まってムジナ沢あたりを味わう選択肢もあったが、奥利根を渡った後ではそれもどこか蛇足のように感じられてしまう(疲れたとも言う)。そのまま鳩待峠を経て戸倉へ向かい山行終了。戸倉のバス停の前の酒屋で買ったビールで祝杯。バスの揺れと相まって心地よい余韻に浸る。
【余談】
奥利根横断と言っても多様なルート取りが考えられ、今回のラインはその中でも穏当かつ保守的な選択肢と言えるだろう。とは言え、自身の山スキー歴の中心を占めるのは巻機山を核とした上越国境の山塊であり、それらの山々から憧憬とともに眺めていた山と尾根をつなぐことのできた今回の横断は感慨深いものがある。中澤慧さんが同時期に実行したネコブ山から荒沢岳をつないだ記録の中で、過去の自身の山行経験があるからこそできる山があると言う(意訳)。彼とは山行のレベルがだいぶ違うが、よく分かる気がする。これまで自分が歩き形作ってきた自身の内なる山を拡大させることで新たな風景が展開される。
昨今目にするようになった(気がする)フレーズに「コスパに合わない山」というものがある。費用対効果に見合わない山行と言いたくなる気持ちは分からなくはない。日々忙しく過ごす中で、限られた休日や資金といったリソースを有効に使って満足の行く気持ちの良い山をやりたいというのは自然な心持ちであろう。だが、そこで見逃してはならないのは、そうしたものの見方の根本に消費の姿勢があることではないか。山のルート集やネット上の山行記録は魅力的に紹介された商品のカタログであり、その宣伝文句に惹かれて山に向かったところ満足行く内容ではなかったために損したと感じる。消費者として消費社会に生きる現代の人間には疑う余地のない理路かもしれない。しかし条件が良く満足の行く山行ができたとしても、他社が生産した商品を購入して消費して喜んでいるのに過ぎないのかもしれない。我々の生き方にはそこまで消費的姿勢が染み込んでいる。
山に向かう理由の一つには、世俗から離れて自然と対峙することで自身の生を実感することもあるのではないか。であれば、消費者として山に向かうのではなく、できれば何かを形作ることができればより喜ばしいと感じられる。それが新規ルートや他人の耳目を惹きつけるような山行ではなくとも、自身の内側に少しずつ自らの山を積み上げ形作ることはできないか。外から見える形としては何も残らず、自己満足の世界の中だけであったとしても、消費とは対局にある生産的な行為を続けることができれば、自身の生に自由や肯定を感じられるのかもしれない。その手段として、山スキーは自由を実感するのに実にふさわしいと感じる今日このごろ。(これまたお酒のほろ酔い気分で書いていることに留意が必要であろう)
コメント
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ありがとうございます。
山と酒は切っても切れないと感じてますが、そうでない方も多いことに留意が必要ですね。笑
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