大朝日岳


- GPS
- 09:26
- 距離
- 20.5km
- 登り
- 1,866m
- 下り
- 1,877m
コースタイム
- 山行
- 8:29
- 休憩
- 0:56
- 合計
- 9:25
天候 | 快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2025年09月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
月曜日だったが、次の日が祝日ということもあり車が20台ほど停まっていた |
コース状況/ 危険箇所等 |
けっこう急登だった |
その他周辺情報 | 山の奥の登山口だった |
写真
感想
4年生3人だけとなった本山行。
舞台は山形県が誇る名峰、朝日連峰である。この山域は、豪雪と厳しい自然環境が育んだ豊かな植生や、どこまでも広がる大展望を楽しむことができる一方で、縦走を主体としたルートは体力的にも精神的にも非常にハードだと言われている。私たちにとっては最後の学年で挑む夏の山行でもあり、この地を選んだことにはそれなりの覚悟と期待があった。
下級生が夏合宿で北海道の大雪山やアルプスの縦走を見事にやり遂げていたという事実も大きな刺激になっていた。自分たちも同じように、あるいはそれ以上に、価値ある山行をしたい。後輩たちに負けてはいられない――そんな意識が自然と心の中にあった
当初の計画は、日暮沢小屋を出発点とし、西朝日岳を経て大朝日岳に至り、山頂直下の小屋で1泊。その後、小朝日岳を越えて再び日暮沢小屋へと戻る、1泊2日の行程であった。装備を整え、食料や寝袋も担いで歩くオーソドックスな縦走計画だ。
ところが、山行前日の夜、日暮沢小屋での雑談が思わぬ方向へ転がっていった。疲労や不安があったわけではなく、むしろ気分は高揚していたのだが、ふと誰かが口にした「宿泊めんどくさいなあ」という一言がきっかけとなった。冗談半分のつもりだったかもしれない。しかしそれが現実的な提案として広がり、最終的には「日帰りで行けるんじゃないか?」という大胆な案にまとまっていったのである。
もちろん、その場の勢いだけで決めたわけではない。装備の軽減、体力の見通し、天候の安定、さらには山域の情報まで、冷静に一つひとつを検討した。宿泊装備は担いだままにしつつ、食料を最小限に抑えることで、いざとなれば緊急泊も可能とする柔軟な体制を確保。つまり、「安全を担保しながらも日帰りを主眼に置く」という落としどころに至ったのである。
こうして従来の出発予定であった5:30をさらに1時間早め、3:30起床の4:30出発へとスケジュールを修正した。睡眠時間は短くなるが、行程を日帰りで完遂するためには早立ちは必須。決断の重みを胸に、全員が気を引き締め直した瞬間だった。
迎えた山行当日。驚くことに誰一人寝坊することなく、むしろ全員がスッキリと目覚めることができた。やはり気持ちが高ぶっていたのだろう。慌ただしく朝食をとり、身支度を整えると、まだ薄暗さの残る登山口からいよいよ歩き出した。
私たちは4年生。体力的には最盛期をやや過ぎ、研究や就職活動に追われ、下級生のように日常的なトレーニングが十分に積めているわけではなかった。だからこそ、最初から無理なペースは避け、息を合わせて一歩一歩を確実に進めていくことを意識した。登山は競争ではない。特に長大な稜線を歩く縦走では、序盤の無理が後々大きく響く。自分たちの力量を冷静に把握し、抑制を利かせながら登る姿勢は、4年間の経験の積み重ねがあってこそ身についたものだろう。
標高が1300mに差し掛かった頃、不意に木々の間から空が広がり、一気に視界が開けた。遮るもののない大展望が眼前に飛び込んでくる。これぞ山の醍醐味。疲労を一瞬で吹き飛ばすような景色に、全員が歓声をあげた。しかし、これはまだ序章に過ぎない。稜線歩きは始まったばかりであり、目指す大朝日岳まではおよそ7km。数字だけを見れば大した距離ではないようにも感じるが、アップダウンを繰り返す縦走路においてその7kmは想像以上に重い。
それでも幸運なことに、当日の天候は申し分なかった。雲は少なく、風も穏やかで、気温も適度に涼しい。まさに稜線歩きに最適なコンディションであった。左右に広がる大パノラマ、眼下に見下ろす深い谷、そして連なる山々の稜線。これほど贅沢な景色を前にすれば、疲労感よりもむしろ高揚感が勝る。久々の縦走登山を心から楽しみながら、一歩一歩を踏みしめて進んでいった。
そして出発から約5時間、午前10時を少し前にして、ついに大朝日岳の頂に立つことができた。標高1,870m。眼前に広がる大展望を全員でかみしめながら、しばし達成感に浸った。山頂には他の登山者もおり、互いに労いの言葉を交わし合う。こうした一期一会の出会いもまた、登山の楽しみのひとつである。
十分に休憩をとった後、私たちは計画通り日帰りで日暮沢小屋を目指すことを決断した。登頂が順調であったことがその大きな後押しとなった。下山は体力を消耗している分だけ油断が禁物だが、道中も互いに声をかけ合いながら慎重に歩みを進め、結果的に大きなトラブルもなく無事下山を果たすことができた。
振り返れば総距離20kmという長丁場。体力に自信のなかった4年生3人にとっては、決して楽な山行ではなかった。しかし、だからこそ最後まで歩き切ったことが大きな自信となった。長らく心のどこかに残っていた不安や迷いを吹き飛ばし、再び自分たちの力を信じるきっかけとなったのである。
さらに思わぬ収穫もあった。1泊2日の予定を日帰りに切り替えたことで、丸一日という貴重な時間が余ることになったのだ。その余裕を活かし、翌日は同じ山形の名峰・月山に登ることにした。朝日連峰に続く形で、東北を代表する山々を連日楽しむことができたのは、私たちにとって大きなご褒美となった。
この山行によって、私たちはただ山を歩いただけでなく、自分たちの判断力や行動力を再確認することができた。最後の夏にふさわしい濃密な経験であり、心に残る大切な時間となったのである。
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