塩見岳〜間ノ岳〜仙丈ヶ岳☆念願の仙塩尾根テン泊縦走


- GPS
- 25:12
- 距離
- 41.3km
- 登り
- 4,038m
- 下り
- 3,797m
コースタイム
- 山行
- 1:51
- 休憩
- 0:09
- 合計
- 2:00
- 山行
- 13:32
- 休憩
- 1:02
- 合計
- 14:34
- 山行
- 6:51
- 休憩
- 1:14
- 合計
- 8:05
天候 | 1日目:曇りのち雨 2日目:曇りのち晴れ 3日目:晴れのち曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
下山は北沢峠から仙流荘を経て、JRバスのパノラマライナーで木曽福島駅へ |
コース状況/ 危険箇所等 |
整備された一般登山道 |
予約できる山小屋 |
|
写真
感想
塩見岳と仙丈ケ岳の間をうねうねと続くこの長い稜線は昔から辿ってみたいと思っていたトレイルであり、どれほど地図を眺めては山行計画をシミュレーションしたことだろうか。しかし、縦走には様々な制約がある。このような長距離縦走は体力に余裕がある限りはテン泊でと心に決めているのであるが、このコース上でテントが張れる場所は塩見岳の登山路のほぼ中間地点となる三伏峠、そして井川越の手前、熊ノ平のみ。コースタイム的には通常はもう一泊、仙丈ケ岳直下の仙丈小屋または馬の背ヒュッテでの山小屋泊が必要となる。この長大な尾根を北上するにせよ南下するにせよ、上記の箇所を宿泊地として3泊4日の行程を計画するのが一般的である。
偶然にもこの山行の直前にヤマレコのお薦めコースでこの仙塩尾根が紹介されていることを知る。山小屋泊であれば一日目を塩見小屋に泊まる計画で紹介されているが、もう一つの大きな制約は交通機関である。塩見岳への登山口となる鳥倉登山口にアプローチするバスは夏季(7/13〜8/25)のみの運行である。名古屋方面から来た場合、松川インターからのバスは一日一便のみであり、登山口にたどり着くのは14時となる。必然的に初日は三伏峠までの行程とならざるを得ない。伊那大島からバスで2時間の距離をタクシーを使うと果たしてどのくらいの料金になるのだろうか。下山後、その日のうちに関西に帰るのには16時に北沢峠を出発するバスに乗ることが出来れば木曽福島行きのパノラマライナーから特急しなのに乗り継いで20時過ぎに名古屋駅にたどり着くことが出来るが、これは期間限定で土日のみの運行である。
今年もこの尾根を縦走する機会はなく、またもや来年以降に持ち越しかと思っていたところ、台風で8/15日はJR西日本の列車が全て一日中運休であり仕事が否応なくキャンセルとなる。となれば8/16からの2泊3日の行程でこの仙塩尾根を縦走することを考える。熊ノ平に宿泊した場合、最終日に快速で歩けば16時までに北沢峠までにたどり着くことが出来るかもしれない。しかし、これは体力の問題だけではなく危険な賭けとなる。南アルプスでは午後になると雷雲が発生しやすいので、仙丈ケ岳を午後に通過する際に雷雲に見舞われると万事休すである。ということで、二日目のうちに三峰岳を越え、野呂川越から野呂川に下ったところにある両俣小屋まで足を伸ばす計画とする。
【1日目】
京都では未明まで台風による強雨が続く。晴天は期待できないとしても、午後には三伏峠のあたりでは雨は上がっているだろうと期待して、名古屋駅で新幹線を降りると、伊那へ向かう高速バスに乗り込む。
松川インターで高速バスを降りたのは私一人だけであった。インターの外にある伊那バスのバス停まで移動する。バスに乗るのも私一人のみかと思っていたが、バスの時間が近づくとどこからともなくリュックを背負った単独行の登山客が二人現れた・・・インターの駐車場まで車で来られたようだ。定刻になってもバスは発車しない。運転手が高速のインターでバスを待っている人がいないか確認して来ますから」という。ご親切なことだが、そのような勘違いをされる方がいても全くおかしくない。
伊那大島駅に到着すると駅前にバスがもう一台停まっており、2台前後して走り始めた。バスは途中、塩の里というところでトイレ休憩のために停車する。前のバスからは二人ほど男性が乗っておられたようだが、伊那大島まで東京から辰野経由で来られたのだろう。あずさ号の始発で新宿を出発すると伊那大島駅に11時52分に到着する。
塩の里には直販所というのがあるだが、飾り気のない小さな木造の小屋である。入ってみるとブルーベリーとわずかばかりの特産品がある。日本酒が売っていたので、一本購入し、空のペットボトルに詰め替える。ふとレジの前には大きな胡瓜が大量に置いてあり、「どうぞご自由にお持ちください」と書いてある。一本でもかなりのボリュームがあるのだが、おそらく育ちすぎて売り物にならなくなってしまったものだろうか。胡瓜を用意し損ねたと思っていたところだったので二本頂いていくことにした。
胡瓜につけるのに良さそうな小瓶に入った辛味噌が目に入ったので思わず手に取る。レジに行くと、おばさんが「辛いですよ〜」という。大辛と小辛の二種類ある筈だが小辛が見当たらない。後ろから「大辛しかないんですよ〜」とおばさんの声が聞こえる。どうやら全く商売気がないところらしい。レジの近くの冷凍ボックスには何が入っているのだろうかと覗いてみると鹿肉ソーセージがあったので、思わずこれも入手。
バスは塩の里を出ると、その直後に大鹿村の道の駅を通過する。ここでも綺麗なトイレがあり、さらに立派な道の駅の販売施設があるので、こちらで休憩した方がよほど商売気もありそうなものをとも思うが、昔からの慣習もあるのかもしれない。
まもなくバスは林道へと入ってゆく。登山口の到着予定時刻までは1時間ほどあるのでかなり長いこと林道を走ることになるようだ。舗装された林道をうねうねと登ってゆくうちにいつしか雨も上がったようだ。山腹のかなり高いところを走るようになると、見晴らしが良くなり、壮大な景色が広がる。山の上の方は雲の中である。
林道のゲート前には駐車場があり、数台の車が停められている。ここでバスは林道のゲートを開け、さらに先の登山口へと進んでゆく。終点の鳥倉登山口に到着し、下車する際にバスの運転手にお伺いしたところ、このお盆の週はバス二台で運行しているらしい。しかし、登山口で下りのバスを待つ登山者の姿は見当たらなかった。
登山口から登り始めるとすぐにも落葉松の美林の迫力に圧倒される。林相の美しさを林床を覆い尽くす羊歯や柔らかい下草の鮮やかな緑が演出する。整然と並ぶ灰白色の落葉松の樹々は大聖堂のパイプオルガンを想起させ、厳かなシンフォニーを聴いているかのようだ。落葉松林の林床を埋める羊歯や柔らかい草による緑のカーペットは南アルプス南部に特有の光景だろうか。昨年縦走した深南部の池口岳の林相を思い出す。
落葉松林の中の急登を登るとコルを乗り越えて、尾根の北側斜面をトラバース気味に進むようになる。シラビソやモミの樹林となり、林床は羊歯や草の代わりに苔が覆うようになる。まもなく登山道は深い霧が立ち込めるようになり、樹林の風景は幻想的な様相を呈する。
三伏峠までは2時間ほどで到着する。広いテント場には既にテントがいくつか張られてはいるものの、かなり広々としている。早速にもテントを張ろうとしてテント脇の草叢にキラリと光るものに気がついた。拾い上げてみるとなんと家のものと思しき鍵のついた車のキーである。おそらく鳥倉登山口の手前にある駐車場に停められた車のものだろう。この駐車場に還りついた際のこの鍵の持ち主の絶望を思うと身につまされるものがある。というのも私も以前、山中で車の鍵を落としたことがあったからである。しかし私の場合は携帯が通じる場所であり、家内がスペア・キーを携えて京都市内からタクシーで来てくれたからよかったが、この山深い鳥倉登山口では携帯すら通じないだろう。鍵は三伏峠小屋に届けておいたが、なんとか無事、所有者の元に戻ることを祈るばかりだ。
テントを張るとまずは下から担ぎ上げてきた500ml缶のビールを開ける。しかし、外の気温が低いせいか、折角重たい思いをして運んできたビールがあまり美味しく感じられない。夕食はまサラダチキンをほぐし、先ほどの塩の里で頂いてきた胡瓜と合わせて味噌をつけて食べる。この味噌が非常に美味であった。そして塩の里で入手した日本酒もこの胡瓜や味噌と実に相性が良いようだ。食事をしているうちに雨が降り始める。持参してきた衣類を全て着込んで寝袋に入ってもまだ寒い。翌日の晴天を祈りながら、雨音を聞きながら眠りにつく。
【2日目】
寒さのせいか何度か目覚める。早朝に2時に起床するつもりが、その少し前にも目が覚めたので、朝食は行動食で簡単に済ませると早々にテントの撤収に取り掛かることにした。深夜にも関わらず雲が驚くほど明るいのは薄い雲の上を満月が照らしているからだろう。
歩き始めるとヘッデンを頭につけると濃霧のせいで前がよく見えない。ライトをなるべく低く持ち、足元を照らすことで、。まもなくハイマツの中の開けたピークに到達する。三伏山である。晴れていたら展望が良いのであろうが、霧の中とあっては夜も昼も何も見えないことに変わりはない。
三伏山から再び樹林帯の中へと入ってゆく。昨夜、降った雨のせいだろう。足元は数多くの水溜まりがある。尾根の南斜面のトラバース道となり、なだらかな道が続く。どうやら周囲の林は美しい樹林が続いているようだが、その林相を堪能するのはまたの機会の楽しみとしよう。
急に空が明るくなりヘッデンの明かりを必要としなくなった頃、登山路の傾斜が増し、程なく唐突に森林限界を超える。振り返ると雲の合間から辿ってきた尾根を展望する。
塩見小屋に到着する。小屋の静寂を邪魔する理由はないので、通過する。小屋から先は砂礫の岩稜帯となる。
塩見岳の山頂直下はわずかに急峻な岩場はあるものの概して登りやすい方だと思う。しかし、登るにつれかなりの強風になる。レインウェアーを着て進むが、頭上には雲の合間からは青空が時折顔を覗かせも、その雲の隙間も猛烈な勢いで過ぎ去ってゆく。強風のおかげで全くといってもよいほどに汗をかかなくて済むのだが、むしろ寒いくらいである。
山頂にたどり着くと吹き荒ぶ暴風の音を聞きながらこれから辿る仙塩尾根のスタートラインについた感慨に耽る。いよいよ仙塩尾根に入ると、それまでの草木のない荒涼とした岩稜から一転、なだらかんハイマツの快適な尾根となる。尾根を北に辿るにつれ程なく猛烈な風の勢いは弱まった。
北俣岳の分岐の手前で尾根をまたぐ踏み跡に踏み込む。再び登山路に出たところで一瞬、方向感覚を失う。強風は無くなったものの、周囲は依然として濃霧の中だ。今回、コンパスを持参してこなかったことを悔やむ。スマホのGPSアプリに頼って方向を確認するが、見事にリング・ワンダリングをしていた。
ハイマツの中の砂礫の岩稜を歩くうちに突然、目の前の視界が晴れた。カーテンを引いたかのように一瞬にして青空が広がると同時に、荒涼とした大きなガレ地、そしてその先に続いていく尾根が忽然と姿を現す。ガレ地の縁には緑の草原が目に入る。その先にあるのは北荒川岳だろう。北荒川岳の遥かに高いところで、雲の上から高い山が顔を覗かせる。間ノ岳だ。もしや塩見岳も山頂にかかる雲が取れたかと振り返るが、丁度、私のいる前後で空の色が変わり、塩見岳は厚く雲がかかったままだ。
この絶景を前にして一息入れようとリュックを下ろしたところで先程までスマホを入れていたリュックの蓋のファスナーが開いたままだ。先程のルート・ロスで慌てたのだろう。スマホを落としたかと思って真っ青になったが、スマホはレインウェアーのポケットの中で無事だった。しかし、モンベルのサングラスが失くなっている。落としたのはおよそ30分ほどの間の距離だろう。しかし、探しに戻ったところで見つかるとは限らないだろう。この日のロングコースを考えると残念ではあるがサングラスを諦めることに。
崩壊地の縁を通過するが、かなりの迫力である。すぐに登山路は崩壊地を避けて、東側のなだらかな草原へと入ってゆく。草原の正面にはお花畑の向こうに農鳥岳から南に続く白峰南嶺も雲のヴェールを脱ぎ捨てる。
北荒川岳の山頂にたどり着くと新蛇抜山、伊那荒川岳と続く仙塩尾根のピークが目に入る。ここからはしばらくは樹林帯の中に入ることになるようだ。苔むした林床のなだらかな樹林帯を進むと、登山路は新蛇抜山の東側をトラバースしてゆくが、山頂への標識がある。斜面をわずかに登るとすぐにも樹林を抜け出し、山頂からは360度の展望が広がる。
いくつかのピークの彼方に熊の平小屋が見える。しかし、その先の間ノ岳、塩見岳には重苦しく雲がかかっている。山頂から登山路に降りると熊鈴の音がして塩見岳方面から5人のパーティーが来られる。先に進まれるつもりであったようだが、「360度の眺望です」と伝えすると山頂へと登って行かれた。
新蛇抜山の先の竜尾見晴にたどり着くとここも樹林の中に突き出した岩場で眺望絶佳である。先程まで雲の中だった三峰岳と間ノ岳が突然、雲のヴェールを脱ぎ捨て、その大きな山容を顕現させるのだった。
この頃、間ノ岳の向こうからヘリコプターの音が聞こえる。何故か、救急のヘリのように思われた。まもなくヘリは慌ただしく東の方向へ飛び去っていったように思われる。後で北岳から滑落された31歳の若い男性が亡くなられたことをニュースで知る。亡くなられた方のご冥福をお祈りする。
熊の平へは樹林の林相を楽しみながら一息で到着すると、インスタント・ラーメンを調理して腹ごしらえをする。地元のゆでトウモロコシが売られているので思わず一つお願いするが、残念ながら流石にトウモロコシは冷たかった。食事を準備している間に先ほどのパーティーが到着される。小屋の脇から渾々と流れ出る冷たい清水をペットボトルに補充していよいよ三峰岳への登りに取り掛かる。
すぐに灌木帯を抜けるとハイマツの中の砂礫の広い尾根となり、目の前に間ノ岳が迫力ある姿を見せる。ここまではさほど暑さを感じることはなかったが、後ろから太陽に照りつけられることもあり、途端に暑さが襲ってっくる。登るにつれて勾配が険しくなるり、最後は三峰岳のピークに向かって岩稜帯の痩せ尾根を登ってゆくことになる。
三峰岳のピークに到着したのは13時。途端にいくつものピークをつないで仙丈ヶ岳へと至る仙塩尾根の後半部分が目に飛び込んでくる。仙丈ヶ岳は塩見岳と同様、山頂部分に雲を纏っているものの他を圧倒して、一際大きな山容を誇っている。そして驚くのは野呂川越への高低差である。
そしてすぐ目の前には間ノ岳の大きな山頂部が圧巻の存在感を誇る。間ノ岳に登ったのは10歳の時の記憶が甦る。当時8歳の妹と共に家族での山行であった。当時は北岳から農鳥岳に到るまで延々とガスの中であり、全く眺望がなかったのだが、間ノ岳の山頂の白い闇のような光景が未だに脳裏に焼き付いている。この時はまだ体力に余裕があると過信していたせいもあるかもしれないが、間ノ岳が手招きをしているような気がしてならない。間ノ岳へと往復することにする。
この日は間近に北岳、農鳥岳を尾根の南北に望み、まさに南アルプス北部の核心部における天空の回廊といったところだ。間ノ岳の山頂が近ずくにつれ、40年ぶりこの山の山頂に到達することを思うと昔のことが思い出され胸が苦しくなり、なぜか突然、涙が溢れそうになった。考えてみれば家族が最も幸せな時代だったかと思う。幸いにもこの尾根を歩いている時は周囲には登山者の姿は見られず、一人で静かにもの想いに耽った。
間ノ岳の手前の偽ピークの右肩を巻くといよいよ山頂が姿を現す。山頂には数多くの人がおられ、賑わっている。山頂からの絶景を堪能すると早々に三峰岳へと引き返す。
三峰岳の山頂に引き返すと4人組のパーティーが休んでおられた。どなたかの声が聞こえた。「この三峰岳は間ノ岳に付随したピークのように思われているけど、ここは360度の眺望で、実にいいところですよね〜」・・・御意である。
ハイマツの中の好展望の尾根道となるが、かなりの急下降が続く。展望のない樹林帯に入るとようやく勾配が緩やかになった。樹林の中に入った途端に空気が驚くほど冷んやりしている。苔むしたシラビソの樹林の林相を楽しみながら歩いていたせいもあるかもしれないが、それよりも疲労が溜まり始めたのせいだろう。それまでコースタイムの2/3ほどで歩いていたつもりが、ここにきて全くコースタイムが短縮されない。野呂川越まではいくつもの小ピークの登り返しがあるのだが、登りになると足取りが非常に重い。自分の想定よりも大幅に遅れて野呂川越に到着する。
野呂川越からも足が思うように進まない。なんとか17時過ぎに両俣小屋に到着する。両俣小屋には広いテント場があ理、手前には信州大学の山岳部が大きなテントを張っておられる他にはわずかに数張りのテントがあるばかりだ。テント場の一番奥にテントを張らせてももらうが、ここのテント場の雰囲気の良さは格別だ。小屋の前のベンチでグリーンカレーを温め、2本目の胡瓜を例の辛味噌と共に味わう。テントに戻るとすぐにも眠りつく。
【3日目】
昨日は野呂川越から両俣小屋までもが遠く感じられたのだが、この日の朝は野呂川越までは意外にも短く感じられる。気のせいではなく、後から時間を確認すると登りの時間の方が前日に下りに要した時間よりも短いのだった。昨日の疲労からはかなり快復したようだ。乗越からはヘッドライトの灯りを必要しないほどに周囲は明るい。
樹林の間の展望地からは雲海の上に鳳凰三山が顔を出しているようだ。右手の背後には北岳を大きく望む。しばらくすると突然、北岳の上の雲がピンクゴールドに輝いている。東の空では美しい朝焼けが見られるのであろうが、残念ながら稜線の陰である。
相変わらず冷んやりした樹林の中の空気に包まれるように横山岳への登ってゆく。乗越から横山岳への登りがしんどいことが心配されたが、樹林の林相を楽しみながら登っているうちにすぐにも山頂に到着した感がある。
なだらかに樹林を進む辿るうち、ふと左手の尾根芯の向こうに展望が開けているようだ。登山路を外れて尾根芯へと登って見ると確かに西側の伊那方面の好展望が開けている。しかし尾根のすぐ先には展望の良さそうな岩場が見えている。どうやら独標らしい。藪を漕ぎながら登山路に戻ると樹の苔でウェアーがすっかり緑の汚れるのだった。
すぐにも独標にたどり着くと確かに360度の好展望が広がる。昨日は最後まで雲を被っていた仙丈ヶ岳も綺麗な山容を見せている。そして山頂に至るまでの仙塩尾根に連なる幾つものピークを見渡すことが出来る。次のピーク、安倍荒川岳を越えると三つ目のピークで樹林帯を抜けて、4つめのピークからはハイマツの尾根になることがわかる。ところで独標には単独行の女性の先客がおられた。仙丈ヶ岳から来られたにしては早いなと思って前泊地をお伺いすると高望池でテン泊されたとのこと。他にも登山ガイドの二人がテン泊されていたとのことである。
まもなく高望池の手前で仙丈小屋から来られたという単独行の女性と出会う。お話をしているうちに高望池で前泊されたらしい二人が通りがかる。高望池の西側斜面の水場はバッチリだと教えて下さる。高望池は地図に記されているように池は干上がっている。確かに池の周りの草地ではテン泊された気配がある。先ほどすれ違った女性も仰っておられたが、テン泊するにはいい場所に思われる。
両俣小屋では十分に水を補給していたが、水場の様子を見てみようと思い、細い踏み跡を辿って斜面を50mほど下るとすぐに渾々と湧き出る水を見出すことができた。流れ出たばかりの水は極めて冷たく美味であった。
この日は午後には秋雨前線が発達すると予想されるので稜線に雲がかかるのは時間の問題であろう・・・と思っていると樹林帯を抜けてハイマツの好展望の尾根に出ると仙丈ヶ岳はすっかり雲の中に入ってしまっていた。しかしいよいよ大仙丈ヶ岳への登りに差し掛かるとみるみる雲がとれていくではないか。下からは見上げるような急斜面であるが、上から大人数のパーティーが下ってくる。そのパーティーとすれ違うまでの時間から上までに要する時間の目処がたつが、見た目よりは早く山頂に到着できそうだ。雲が切れているうちにという思いも体を押し上げてくれる。
大仙丈ヶ岳の山頂に到着すると好展望の山頂を独占する。すぐ隣の仙丈ヶ岳の山頂には多くの人で賑わっているのが見える。
仙丈ヶ岳の山頂はひっきりなしに次から次へと登山者が訪れる。信州大学の若い学生さん達と話しをしながら長い休憩をとる。山頂を後にすると稜線にはすぐにも雲がかかり始めた。小仙丈ヶ岳に到着する頃にはすっかり雲の中となった。
急ぐ必要はないのであるが、北沢峠まではいつものペースで一気に下る。かなりの数の登山者を追い越すことになる。北沢峠にはほぼ12時に下山。まずはこもれび山荘でビールを一本購入。北沢峠ではバス待ちの人が28人になると臨時のバスを出してくれるという。仙流荘には13時過ぎに到着する。ここもそれほど標高は低くはないはずではあるが、バスを降り立った瞬間の暑さに辟易する。
仙流荘からは高遠からバスを乗り継いで伊那市まで行くことは可能であるが、調べてみると伊那市から名古屋に向かう高速バスが全て満席である。16時50分のパノラマライナーまで3時間半以上の時間を待つほかない。まずは仙流荘でゆっくりと一風呂浴びる。幸い仙流荘の無料休憩室は快適であり、前回の薬師岳〜室堂への山行記をしたためるうちに時間が過ぎて行った。
振り返ってみると学生時代はワンゲルの友人達と数多くの山に足を運んだつもりであったが何故かこの南アルプスには足を運んだことはなかったのだった。一方、私の父親が家族を連れて登ったのはこの南アルプスが最も多い。これまで自分では意識したことはなかったものの、その幼少の頃の思い出がこの山域への思いを格別なものにしていることを今更ながらに思い至るのであった。
コメント
この記録に関連する登山ルート
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夏山を満喫されていますね。薬師岳からの縦走の2日後ですよね。体力も羨ましい限りです。
憧れの仙塩尾根ルート。いい写真を見させていただけました。
2日目の行程は大変ですね。野呂川越から両俣小屋への急下りを明日登り返すと思うと足も重いかな?(私はですけどね)
三峰岳の写真は貴重かと。あまりアップされていない気もします。
間ノ岳から両俣小屋経由で野呂川出合へ下るとき、平日にてバス時間が繰り上がっており、三峰岳をパスしてしまったんです。
あのお山って2999mもあるのに標高100山リストに出てこないですね。山頂からの360°パノラマが楽しめるとのこと。シマッタな〜
間ノ岳から野呂川越えの稜線、結構長く感じました。平坦部は駆け足に近い速さで歩き、両俣小屋について水を頂き、星さんにご挨拶。バス時間まであまりないけど大丈夫?と聞かれ、頑張りますって答えて、野呂川林道をザックを押え小走りした経験があります。
仙丈ケ岳も大仙丈ケ岳へ足を延ばせなかった… こちらからの眺めもいいですね。
こんな歩きをしたいものですが、小屋泊専門なので無理ですね。
伊那からの高速バスは満席で駄目だったとのこと。パノラマライナーもご存知とは通ですね〜 「ワイドビューしなの」に連絡しているので便利ですよね。
お疲れさまでした。
ののさん コメント有難うございます。
>間ノ岳から両俣小屋経由で野呂川出合へ下るとき、
さすが、ののさん、北岳の登山に魅力的なオプションをつけられた訳ですね。
>山頂からの360°パノラマが楽しめるとのこと。シマッタな〜
間ノ岳からのパノラマ尾根の下りで既に十分に景色を堪能されたことでしょう。
>間ノ岳から野呂川越えの稜線、結構長く感じました。
御意です。GPSを幾度か確認してはまだこれだけして来ていないのかとがっかりすることの繰り返し。疲労のせいもあったかと思いますが、単独行では、はじめてコースタイム・オーバーをしてしまいました。
>こんな歩きをしたいものですが、小屋泊専門なので無理ですね。
いえ、この尾根は小屋泊の方がコース取りしやすいと思いますよ。三伏峠、熊の平、馬の背に泊まって3泊4日というのが妥当かもしれませんが、野呂川越に登り返す余裕があれば両俣に泊まりたいところではないでしょうか。
レコでは書きませんでしたが、ここの宿泊料のや安さ、それから料理の素晴らしさは抜群らしいですね。熊の平も評判がいいようですが、私もテン泊を諦めたら、是非、両俣の料理を味わってみたいと思うところです。
>パノラマライナー
これが運行されている間だからこそ可能となる山行がありますよね。
素晴らしい三日間ですね!
そして素晴らしい体力気力ですね!
キュウリとサラダチキンの辛味噌和え、めっちゃ美味しそう
今度やってみます
私も一人で山歩きしてるとき、たま〜に泣いてしまいます
妙にいろいろな考えごとができるし、ある意味感情がリラックスしてるんでしょうね。嫌なことをリセットしたり、昔を思い出したり、、、いい時間です。
rikaさん コメントどうも有難うございます。
レスがすっかり遅くなり、失礼しました。そもそも、この長大なレコを読んで下さったんですね。やはりrikaさんは奇特な方ですね。
rikaさんもそうだろうと思いますが、子供の時、親が連れて行ってくれた山というのは格別な思いがありますよね。
辛味噌と胡瓜の相性が抜群ですので、汗をかいた後は体に沁み込むように思われます。徳島だったら特産の美味しい味噌があるのかな。
前略失礼いたします。
山々、道々への敬愛の想いがあふれる壮大なレコ、感動しました!
そしてどんどんレコが更新されて、ほんまに自然や山への愛が凄いですね。
役行者様の生まれ変りでは!?
連絡遅くなり申し訳ございません、ブルー今治回収しました!
野呂川超から私の足で一時間ちょっとの所で、誰かが木にかけてくれてましたよ。
山に人工物を残すのが気がかりとおっしゃってましたので、無事に塩塩尾根を旅して下山したのでご安心ください(yamaneko0922さんの持ち物なら、山の魔力で自然に帰るような気もしますが…)。
ryogugego様 ご連絡ならびに小生の落とし物をわざわざ回収して下さり、有難うございました。道中、余計な荷物を増やしてしまったこと心苦しく思いますが、心より御礼申し上げます。
それから私の長いレコを読んで下さり有難うございます。あくまでも私自身の備忘録として漫然の書き連ねたものであり、恥ずかしく思います。
両俣小屋の翌日、コースタイム的にはタオルを探しに戻っても予定時間までには下山出来るだろうと思いましたが、体調があまり芳しくなく、諦めて先に進むことにしたのでした。体が温かくなるにつれてすぐに体調は戻ったので、単に体が冷えていただけだったのかもしれませんが。続きはメッセージを送らせて頂きます。
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