大門沢から農鳥岳・間ノ岳・塩見岳


- GPS
- 56:00
- 距離
- 36.3km
- 登り
- 3,821m
- 下り
- 2,976m
コースタイム
- 山行
- 10:55
- 休憩
- 0:20
- 合計
- 11:15
- 山行
- 8:00
- 休憩
- 0:30
- 合計
- 8:30
- 山行
- 7:55
- 休憩
- 0:35
- 合計
- 8:30
天候 | 晴れたり曇ったり雨降ったり雪降ったり |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2015年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス タクシー 自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
稜線雪少ない。樹林帯雪多い |
その他周辺情報 | まつかわ温泉清流苑 |
予約できる山小屋 |
塩見小屋
|
写真
感想
●5月2日(土)晴れ 奈良田〜農鳥小屋
奈良田を早朝4時過ぎに出発。まだ辺りは仄暗かったが、歩き始めて10分もしないうちにヘッドライト不要の明るさとなった。さすがに晩春の夜明けは早いものだ。明るくなってから気付いたが、大門沢(広河内)沿いの上部を見上げると、所々に山桜が薄ピンク色の花を咲かせている。稜線にある残雪はここで見上げる限りかなり少なくなっているが、春山を感じさせるコントラストだ。やがて林道はダム工事現場のような地点に着き、登山者はこちらへ迂回せよと右手に標識が現れる。この迂回路は工事用道路(林道)を大きく迂回し沢の反対側へ向かっているが、そのまま林道を歩いても同じ場所に着くことが後になって分かった。トラックの通行を優先させるためなのか?この後吊り橋を何度か渡り返す。一昨年末の内河内沢での悪夢を思い出す風景だ。気を取り直して進むと、下りの単独行男性とすれ違い、間もなくして予定よりだいぶ早く大門沢小屋に着いた。ここまで雪は全くなかったが、小屋を過ぎてしばらくすると少しずつ雪が現れた。そして河原を離れ、樹林帯内部に進路を取り始めたあたりから本日最初の苦行が始まった。雪は深くなり、所々で落とし穴にはまり始める。勾配が強烈にきつくなる上にこの落とし穴地獄はかなりつらい。おまけに道が残雪のため不明瞭であり、進路を見定めるのにも気を遣う。この時期ラッセルにはならないので、先行者のトレースもけものの足跡と区別できないくらい頼りない。やはりこのコースは登りに使うべきではなかったかと後悔しかけるがもう遅い。樹林帯の背丈が低くなり、やっとの思いで森林限界を越える地点まで到達したが、もうすでに昼近い。ハイマツが現れ、トレースがさっぱり分からなくなってきたが、周囲の地形からひたすら上で登れば間違いないと思い、そのまま先へ進む。すると左手に登山者のトレースか鹿か何かの足跡か区別のつかない踏み跡が斜面をトラバース気味に上がっているのが見えた。地形図を見る限りではハイマツ地帯を直登するのが正しいようだが、判然としない。おまけに、この足跡のある雪斜面は滑ったら真っ逆さまに下まで続いているので何か嫌だ。結局このままハイマツを藪漕ぎ状態で直登すると、やがて踏み跡のようなものが出てきた。そこを上り詰めると小ピークのような地点に着き、そこから稜線を見上げることができた。稜線まではハイマツの中のジグザグ道を進み、ようやく大門沢下降点のある鐘の前に着いた。結局ルート取りが正しかったのかどうか良く分からずに登り詰めたようだ。ここから稜線歩きだが、途中で8年前にプチ滑落した地点を通り過ぎ、農鳥岳のピークが見えてきた。反対側からも2人の登山客がやってきて、一瞬早く2人の方が頂上に到着した。ここまでで結構体力を消耗し、頂上に着くや否やしばらく茫然と座り込んでしまった。言葉遣いから親子らしき2人の男性パーティにこの先の登山道の状況を尋ねると、概ねアイゼン不要だが西農鳥直下のトラバースは残雪多く、特に下りは危険とのこと。これから自分が向かうのは下りである。本家より高い西農鳥岳頂上にはいつの間にか立派な標識が出来ていた。そこを進んでしばらくすると例のトラバースが待ち受けている。アイゼンを着用し慎重にバックステップで降りるが、下るに従い勾配がきつくなるといういやらしい斜面だった。そこから先は何事もなく下り、3時半過ぎに農鳥小屋へ到着。冬季小屋はよく分からなかったので、小屋の前にテントを張った。懸念していた風は弱く、快適なテント生活を過ごせた。眼下には甲府盆地が一望出来、行程は長くてきつかったが天候に恵まれた初日だった。
●5月3日(日)晴れのち曇り 夜半過ぎから雨一時雪
本日の予定は、登山届には「北荒川岳付近まで」と一応は書いたが、本音を言えば塩見を越えて塩見小屋の先まで進みたい。何故なら予報では明日以降天気が崩れるというからだ。しかし、今日の行程には「仙塩尾根」という予想できない難敵が控えている。この区間は樹林帯が長いので、アリ地獄のようなずぼずぼの残雪が待ち構えていること必至である。夏時間なら三伏峠あたりまで行けそうな行程なのだが…。
朝4時過ぎ、出発時刻を迎えると東の空がオレンジ色に染まってきた。間ノ岳登りの勾配が急になり始めるあたりで太陽がひっそりと顔を出した。「ひっそり」という言葉を使ったが、冬山の日の出と違って、気付かないうちにいつの間にか出ていたという印象が強いためだ。冬の雪山の荘厳さには欠けるが、一応瞬間を写真に収めておく。農鳥岳や間ノ岳も徐々にオレンジ色に染まりだしたが、雪に覆われている部分が少ないため、夏山と変わりない気がする。
間ノ岳への登山道には、頂上直下付近を除いて雪がないためノーアイゼンで登頂できた。登頂の直前、時刻は5時40分過ぎにもかかわらず、反対側から2パーティが降りてきた。恐らく北岳山荘泊まりかと思われるが、この先鳥倉登山道まで人と会うことがなかった。
ここから先は今回の核心部分に突入する。ネット等で事前に調べても、この区間の冬、春山における通行情報が極めて少ないので、どういう状態なのか良くわからない。まずは間ノ岳から三峰岳へ向けての下降であるが、今までと違って尾根が細く急峻であり、間もなくして早速雪がたっぷり着いた斜面トラバースが現れた。ここでアイゼンを着用するが、その先にも似たような状態の箇所がありそうだったので、雪がなくなってからもしばらくアイゼンを着けたままで歩行を続け、200M近く下った標高2999Mの三峰岳へ到着。これは名を冠した単独の山ではあるが、遠目から見れば間ノ岳の一部に過ぎない。しかし、ちょっとした岩の塊がぽっこりと突き出したような愛嬌のある峰だと思った。来た道を振り返ると間ノ岳が巨大な要塞のように聳え、右手には仙丈へ続く仙塩尾根(これから行く道も仙塩尾根の続き)がはるかに続いている。ここからは中央アルプスを始め、昨年噴火を起こした御嶽山や北アルプスも良く見える。どこも天気は良さそうだが、この段階で西の空に雲が増えているのが気になる。さて、ここでアイゼンを再び外し三国平まで順調に進む。農鳥からのトラバース道と合流するが、今の時期ならこの道を通っても問題なく歩けそうに見えた。三国平を過ぎると井川越へ向け道は急坂を転げ落ちるように下っていくが、ここで残雪が現れ始めた。右手にハイマツ群落があるほかダケカンバなどの樹木が疎らであり、なおかつ長い急斜面なので、ここで再びアイゼンを着用。井川越まで下ると、今度は下まで行き過ぎないよう気を付けながら斜面をトラバースしたところが熊の平小屋である。小屋の手前がテント場になっているが、夏であれば流水があちらこちらに出ている場所だ。すると一か所雪解けのためぽっかりと地面が口を開けている場所があり、期待していなかった飲み水にありつく。何と甘くておいしい水だろうと、これからの苦労をその時は知る由もなく満足に浸っていた。実際これほどうまいと思ったのは、朝日連峰の銀玉水以外に記憶にない。栄養補給の後は樹林帯の残雪アリ地獄地帯の始まりである。小屋を出て早速緩やかな登りの始まりで、道も判然としなくなった。樹木に寄り過ぎると大きな落とし穴にはまりやすくなり、ルート選定に苦労する。気温も徐々に高くなり、雪はさらにもろく崩れやすくなってきた。とりあえず尾根近くを進んでいれば間違いないだろうと、赤テープを無視して進むとやがて「安倍荒倉岳」と思われるピークに。ピークに近くなると、部分的に雪がなくなり夏道が顔を出している。ここを過ぎてしばらくすると2653Mピークがあるが、ここで道間違いをやらかした。仙塩尾根は単純な一つの尾根道であり、尾根上を忠実に進めば間違いないと思っていた。しかし、地形図をよく見るとこのピークを過ぎた辺りに西方向へ紛らわしい枝尾根が派生しているのが分かる。事前に下調べをしていなかったため、誤ってこの尾根に入ってしまい、100M程進んだところで左手に視界が効く場所があり、そこで誤りに気付いた。もし視界が効かなかったらと思うとぞっとするが、これが残雪期の樹林帯道の怖さだ。道間違いなどをしているうちに、余計な体力と無駄な時間を使ってしまい、新蛇抜山に着く前に既にヘロヘロ状態になった。この区間数少ない好展望の竜尾見晴を通過しても、展望を楽しむ余裕など全くなく、思考能力なくただ惰性で前へ進むだけのような状態に…。思いのほか体力を浪費する原因の一つに、倒木が道を塞いでいることが挙げられる。避けるために遠回りを強いられ、またやむをえず乗り越える場合でも、20キロ近い荷物を背負ったまま全身の体力を振り絞って格闘しなければならない。また、時々道を見失い、矯正するために元来た道を引き返したり、ショートカットしようとして難路にはまったり…。2542Mの最低コルを過ぎると北荒川岳へ向けた登りが始まる。昨日眺めた限りでは、北荒川岳以南は樹林帯ではなくなり夏道が顔を出していたので、ここまでの辛抱だと自分に言い聞かせる。しかしこの登り中々の曲者であり、まず尾根が二重に分かれ始めた。そして、雪斜面の間にハイマツ帯が現れ、やがて大きな藪へと変わって行った。正しいルートを進まないと、ハイマツ藪に遮られ、ルート矯正が困難になる。下から見ると北荒川岳山頂付近はハイマツ藪に覆われているが、その中に一筋の踏み跡のようなものが見える。これが地獄から脱出する唯一の逃げ道だと思い込み、それを目掛け一心不乱に斜面を登った。しかし登り詰めた先はハイマツ藪に遮られ、頂上へ至る踏み跡が見当たらない。やむを得ず隣の斜面目掛け、ハイマツ藪に飛び込み強行突破を試みる。ところがこの斜面も行き止まりで道がない。何度か繰り返しているうちにやっとの思いで踏み跡を見つけた!お釈迦様のお導きではないが、天にも昇るような気持ちで踏み跡に飛び込み、北荒川岳山頂になだれ込んだ。今までの風景は一変し、大崩壊地のがけ際の八ヶ岳でいう硫黄岳山頂付近のような光景だ。しかし、ここから先は夏道と思っていたところ、実は崩壊地の泥砂が飛ばされて地面が茶色くなっているだけであって、依然としてどろどろの残雪に覆われていることが分かった。時刻は12時近くになり、体力も限界に近く、この時点で本日中の塩見越えは諦めた。北荒川岳付近は以前キャンプ場になっていただけあり、テントを張れそうな場所がいくつかあったが、泥砂に覆われた場所でテントなど張る気が起らず、結局もう少し頑張って進み、2719Mピーク付近の残雪がある平地にテントを張った。ロケーションは良好であり、風もほとんどない。冷えたビールを飲んで2時間ほど昼寝するといつの間にか周囲はガスで覆われ見えなくなっていた。
●5月4日(月) 小雪のち曇り一時小雨
テントサイトから見上げる北俣岳への道は急峻であり、一か所雪渓をトラバースしているように見える箇所があった。最上部に近いので、滑ったら命はないだろう。さらにその上は黒くなっていて良く分からない。昨晩は日付が変わるころにパラパラと雨が降り出し、予想よりも早く天気が崩れ出したようだ。悪天候の中を未知の区間と難路の塩見越えをしなければならなくなり、昨日あれだけばててしまった自分に失望を感じた。2時半頃起き出しテント外を覗くと、実は雨ではなく雪だったということに気付いた。といっても積もるような雪ではなく、みぞれに近い。そもそも体感では雪が降るような寒さではないのに雪とは不思議だ。悪いことに昨晩から風が強くなり、時々唸るような暴風が吹き始めた。しかし北俣岳までは何とか視界が効くようだったのは不幸中の幸いだった。今日は最終日であり、何とか明るいうちに下山したい。そしてその日のうちに甲府まで移動し、次の日に奈良田まで車を回収に向かいたい。連休最終日には予定があるため、これがずれると日程が厳しくなる。というわけでまだ暗いうちの4時ちょうどに出発。雪渓トラバースに早速さしかかる。風が強く、しばしば耐風姿勢を強いられるのには閉口したが、問題なく通過し、呆気なく北俣岳山頂へ。ここから塩見山頂までは雪が多く、ナイフリッジもどきがいくつも現れる。しかし何故か急に風が弱まり、雪もそんなに腐っていなかったので、問題なく通過。ガスで視界は効かなかったが、1時間40分程で塩見東峰に到着。まずは不安な区間を一つクリアしほっとする。西峰からの下りは難所とされているが、南斜面なので雪は登山道にはほぼ残っておらず、全く問題なく通過。天狗岩付近でガスが晴れ、上空にはかすかに青空の一部が顔を出した。立入禁止の塩見小屋を過ぎると樹林帯に突入。もう完全に危険地帯を抜け出し楽々下山モードに入っていたが、ここで手痛い反撃を食うことに。踏み跡が今一つ不明瞭のため、下り始めてまもなくルートを見失った。地形図を見ると権右衛門山へ延びる尾根の左手にもう一つ枝尾根があり、誤ってこちらに入り込んでしまったことが分かった。真っ直ぐ進めば大井川中俣へ降りてしまうので一大事だ。正しいルートに戻り、昨日のような苦しい残雪樹林帯アリ地獄を進み、本谷山を通過(標識は埋もれて発見できず)。テントが2〜3張ってあるのを見かけたが人には会わず。苦しい登り返しを進み、ようやく三伏山に達した。ここでスマホの電源を入れてみたところ、バッチリ電波が通じたので、麓のタクシー会社に電話し、鳥倉ゲートまで来てもらうよう頼んだ。三伏峠を過ぎ、鳥倉ルートを下山するが、これがまた最初の内はいやらしいトラバースが多く、雪も不安定であり、全く油断できなかった。豊口山間のコルを過ぎると急下りとなり、やがて雪が消えた。やがて林道に出、30分程この景色のよいアスファルト道を進むとゲートに着いた。時刻はちょうど12時半。タクシーは既に着いており、電話では「12時半に着く」と言って予約したので、あまりにもぴったりだったので運転手は驚いていた。
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